スリランカ、日本支援の鉄道事業を撤回 中国意識か
インド洋の島国スリランカが、日本が支援する鉄道整備事業を撤回する考えを示した。総事業費が2500億円規模と、1カ国による支援としてはスリランカ最大の事業であり、同国が中国への経済的依存を下げる動きの一環と見られていた。実際に事業が撤回となれば、同国が再び中国依存に傾く懸念が強まりそうだ。
予定していた鉄道事業は最大都市コロンボ市内を走る一部区間が対象で、総延長15.7キロメートルの高架軌道の敷設や16駅の設置、鉄道車両の調達などが含まれていた。2019年3月には事業の第1期分として、国際協力機構(JICA)が約300億円の円借款契約をスリランカ政府と結んだ。同年7月に当時のウィクラマシンハ首相が同席し、起工式も開いた。
だがラジャパクサ大統領は事業の打ち切りを指示した。大統領秘書官は運輸省に宛てた21日付の書簡で「非常に費用が高く、コロンボの都市交通インフラとして費用対効果が適切ではない」と指摘。「大統領が事業の終了とプロジェクト事務所の閉鎖を指示した」と説明した。
同事業はシリセナ前大統領時代に日本側と合意したもの。シリセナ政権は過度の中国依存の修正を掲げ、日本やインドなどとバランスの取れた外交を目指した。一方、19年11月に就任したラジャパクサ大統領は再び中国に傾斜するとの懸念がつきまとう。05~15年まで大統領を務めた実兄が、中国マネーに頼るインフラ整備を進め「親中派」とみられたためだ。
実兄が大統領時代に中国の支援で開発した南部ハンバントタ港は17年、債務返済に窮して中国側に99年間の運営権を譲渡した。中国による「債務のわな」の典型例だ。19年の大統領選後は、この兄が首相に就き、兄弟で大統領と首相を務めている。
ただ実際に日本支援の鉄道事業が撤回となるかは不透明だ。ロイター通信は24日、運輸省高官が「為替相場の問題で一時的に停止した。他のプロジェクトも中断している」と述べたと報じた。JICAのスリランカ事務所は25日、日本経済新聞の取材に「(事業撤回の)報道は承知しているが、詳細は差し控えたい」と述べるにとどめた。(早川麗)