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箱根駅伝に考える スポーツの価値、生かせない日本

ドーム社長 安田秀一

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正月休み、テレビで箱根駅伝を見た人は多いのではないでしょうか。創設から100周年、すっかり風物詩となっています。今年は区間新記録が相次ぎ、総合優勝した青山学院大学は大会新記録を樹立しました。米スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店、ドームで社長を務める安田秀一氏は、その盛り上がりにスポーツのパワーを改めて感じたと話します。ただ米国のスポーツビジネスや学生スポーツに詳しい同氏は、日本ではスポーツの価値が十分に活用されていないと指摘します。

◇   ◇   ◇

今年のお正月も箱根駅伝で大いに盛り上がりました。関東の大学生のスポーツイベントがこれだけ日本中の注目を集め、熱狂させるということに、改めてスポーツの持つ価値やパワーの大きさを認識しました。

一方で、主催する関東学生陸上競技連盟(関東学連)や関連する企業が大きな利益を得ているのではないか、そんな声もSNS(交流サイト)を中心に上がってきています。関係者や箱根駅伝のOBたちから、主役である学生や大学に収益が還元されていない、どこに行っているのか分からないという声も上がっています。補助員などで無報酬で半ば強制的に箱根駅伝の運営に参加させられる学生がいる一方、収益をあげている企業や組織がある。これはどう考えてもフェアではありません。今回は箱根駅伝を入り口に日本の学生スポーツのあり方、さらに、この国でスポーツの価値が向上しきらない理由について論じてみます。

120年前の米国の状況と似ている

結論から申し上げれば「不満があるなら、大学が体育会を大学の組織に組み込み、大学が主催者となる新しいレースを作ること」が、その本質的な解決策だと思っています。箱根駅伝の盛り上がりを見ていて、僕がつくづく感じるのは「120年ほど前の米国の状況とよく似ているのだろうなあ」ということです。約120年前とは、全米大学体育協会(NCAA)が設立された当時のことです。

米国の大学スポーツも最初は自発的な学生たちのクラブチームの対抗戦から始まりました。東部の名門大学などでアメリカンフットボール、ボート、陸上競技などが人気を集めていました。その中で、もっとも人気のあったアメリカンフットボールの試合において、死亡事故や重篤なケガなどの事故が続発したことが問題にされ始めました。また、ボートや陸上競技などでもスポンサーシップなどの財務に関するルールがなかったり、選手の出場資格も不明瞭だったり、と競争自体が不当や過当になっていき、ますます問題が大きくなっていきました。そこで大学はまず、安全で公正な環境を整備するために、クラブチームではなく、大学自らが責任を持ってチームを所有・管理する、という決断をしました。

全ては「大学スポーツの盛り上がり」がその要因であり、学生はもちろん、教職員やOBOGたちも学生アスリートたちの躍動に熱狂していたという背景があります。同時に、スポーツを通じて成長を遂げる学生たちを目の当たりにして、教育的な価値も見いだしていた大学は、「アスレチックデパートメント」という部署を設けて、その傘下にチームを加えることにしました。アスレチックデパートメントは適切な日本語訳がありませんので、ここでは「競技統括部」と名付けますが、まずはそのような形で大学内に正式な組織をつくり、人事や金銭管理、安全管理も大学が責任を持つようになりました。

それでもなお、大学スポーツの人気は右肩上がりを続け、それと比例するように過当な競争は収まらず、大きな社会問題にも発展してしまいました。そんな背景から、ハーバード大学などいくつかの大学が大学スポーツを禁止するという動きにも出ましたが、教育的価値を含めて大学スポーツの大ファンだった当時のセオドア・ルーズベルト大統領が各大学の学長を集めて「お互いに守るべきルールを作る」ことを促しました。これがNCAAのスタートです。

箱根駅伝も当時の状況に酷似していると思います。

まず、当時の米国大学スポーツと同様、「お金」の問題があります。主催者である関東学連側、つまり駅伝大会自体の財務内容の透明性の課題はもちろんですが、大学にも同様の課題があると言わざるを得ません。有力な選手の獲得にいくら使っているのか、スポーツ推薦の基準や特典は何なのか、外国人留学生をどのようにリクルートしているのか……など、大会という「器」にも、出場校という「食材」にも「公正な競争」という点において、大きな課題があるように思えます。

現実として「財力=チーム力」となっている傾向は強いですが、そのこと自体が悪いということではありません。今のやり方、仕組みでは、あまりにグレーな部分が大きすぎて、火薬庫のようにリスクが高いというのがポイントです。

安全管理や学業への影響など、そのリスクはたくさんありますが、もっとも分かりやすい一つに税務があります。主催者である関東学連は任意団体ですが、申告や納税をしているのでしょうか。スポンサー費用が巨額であれ少額であれ、この規模の興行で納税義務は発生しないこと自体がおかしいわけです。担当の役員、理事は手弁当でやっているのか、大会では学連負担の弁当が支給されているのか、その弁当代や交通費はどっから出ていて、余ったお金はどうなっているのか。公に認められた教育機関ではない任意団体が、国家的規模の興行を行い、教員ではない団体職員がなんらかの便益を受けるのであれば、最低限申告の義務が伴うはずです。

これは「体育会」にも同じことが言えてしまいます。「大学や学生に還元すべきだ!」という声も聞こえますが、ここでいう「大学」というのも、実際には「体育会陸上部」を示していて、その実態は学連と同じように任意団体です。大学には監督という職掌はなく、大学教授か職員というステータスか、OB会が給料を拠出するケースなどがあります。スポンサーシップ契約も、大学ではなく、体育会陸上部と行うことになると思いますが、契約金が支払われる部活には納税義務がありません。また、そのスポンサーシップ契約にも、選手のリクルートにも規制はなく、優秀な高校生はどんな接待を受けているのかなど、誰も管理できません。

などなど、約120年前の米国大学スポーツと、似ているどころかまったく同じ状態と言えるように思います。リスク回避のため大学は、まず体育会を大学の組織内にいれることから始めるべきだと思います。

スポーツには具体的な価値がある

現在の米国は、NCAAやNCAAに加盟する大学のスポーツでの財務内容、興行収入やスポンサー収入、人件費に至るまで上場企業並みの情報公開を行っていますし、高校生に対する接触にも厳しいルールが設けられています。これも、大学同士でメンバーシップを構成するNCAAであるがゆえに、大学同士の合意に基づいて主体的にルールを作る、という民主的な仕組みが前提となっています。そもそも、大学が部活を所有し、各種大会の主催者であるわけです。この1世紀あまり、米国の大学は、箱根駅伝クラスの大学スポーツイベントを主体的にどんどん立ち上げ、育成し、チームの財政を潤沢にし、よりよいアスリートを育成するだけでなく、大学の財政の大きな柱になるまでに成長させてきました。

この両国の違い、約120年前の改革がなぜ日本ではいまだに行えないのか。僕は、大学にとどまらず、日本社会全体が「データに基づく物理的な価値」を理解していないことに、具体的な原因があると思っています。その大きな課題の枠内に、スポーツや大学があると思っています。

今年の箱根駅伝ではナイキ社の厚底シューズが話題になりました。参加選手の8割以上がナイキ社のシューズを履き、好記録続出の背景にあるともされ、大変な宣伝になったことでしょう。箱根駅伝を利用して最も大きな価値を手にしたのは米国のこのスポーツ用品メーカーかもしれません。ところで、そのナイキ社の時価総額は日本円にして約18兆円にもなることをご存じでしょうか。

日本でナイキ社の時価総額を上回る企業はトヨタ自動車しかありません。日本が誇るメガバンクの上位3行を束にして、ようやく同じ規模です。そのナイキ社の前身は、日本のオニツカタイガー(現アシックス)の米国における販売代理店でした。それが世界的な巨大企業に成長するなんて、当時の日本人にはとても想像できなかったでしょう。むしろアシックス社が世界をリードするスポーツブランドとして君臨したり、トヨタと時価総額ランキングを争う企業になっていたりした可能性を感じるべきかもしれません。スポーツにはそれほど「具体的な価値」があることをデータは雄弁に語っています。

日本では一流企業といえば、いまだに多くの人が重厚長大の製造業や銀行、商社などをイメージしますし、実際の学生就職希望ランキングを見ても僕らの時代と、代わり映えしない企業が並んでいます。僕らの時代、約30年前は世界の時価総額ランキングのトップを日本の銀行たちが占めていて「大企業」や「世界企業」というにふさわしかったと思います。ですが、今ではGAFAなど米国のIT企業や、アリババ集団やサムスン電子などアジア企業などが上位を占め、日本企業はトップ30社に一つも入っていません。本当に残念で悔しい事実ですが、これが社会全体のデータから見た現実だと思います。

では「大学」の日米の違いはどうなっているでしょうか。約120年前に大学スポーツを「教育に資する」「大学の収益改善に寄与する」と評価し、連綿とスポーツの育成を行ってきた米国の大学のデータを見てみましょう。

スポーツとアカデミックの密接な関係

大学スポーツを一時は禁止にしたハーバード大学、現在ではNCAAのディビジョン1に所属する「スポーツに積極的に取り組む大学」となっていますが、このハーバード大学の寄付基金はなんと4兆円を超える規模を誇ります。その他、スポーツの強豪校として名高いミシガン大学やノースウェスタン大学も1兆円を超える規模の基金を持っています。一方で、日本の大学はと言えば東京大学や慶応大学の400億円前後が最大と言われていて、米国の一流大学には100倍ほどの差をつけられてしまっています。また、米国の大学はこの基金の運用で、毎年10~15%くらいの収益をあげていて、その金額は1千億~5千億円にも達しますので、その現実的な差は加速度的に開く一方です。この基金を集める際にもスポーツはその威力をいかんなく発揮し、有力なOBOGを大きな試合に招待してファンドレイジングをするのは米国の大学の常とう手段になっています。この財力の差が、大学自体の力量差を生んでいることは言うまでもありません。

米国のもっとも裕福な大学のトップ10のうち、マサチューセッツ工科大学(MIT)以外の9校までが、NCAAのディビジョン1に所属するスポーツ名門校であり、世界大学ランキングも同じような顔ぶれであることから、スポーツとアカデミックの関係は切っても切れないものであることは紛れもない事実だと思います。

日本の大学、学長や理事長がこうした世界の大学のデータを知っていれば、日本の大学スポーツもあり方が変わってくるかもしれません。若い世代も、「大企業」の定義を、今の直線的な物差しではなく、時代の流れや世界規模を組み合わせて立体的に考えてみてほしいと思います。そして自分の将来をどこに託すべきか、もっともっと視野を広くして考えてみてください!

社会全体が、井の中の蛙(かわず)から脱却すれば、箱根駅伝への不満や疑問は、自然と「大学の体育会改革に向かう」のでは、と思います。現実として米国でも、約120年前にそこから始まったわけです。

日本は昨年、とうとう出生数が90万人を割ってしまいました。僕が生まれた時代の半分にも満たない状況です。同級生が86万人しかいない、という現実ですが東大や早慶の席の数は変わっていません。大学自体の競争率が下がるだけでなく、スポーツの競争も同じようにどんどん緩やかになり……と、そんな暗い未来など誰も想像したくないでしょう。競争を好まない方々が多いかもしれませんが、世界は厳しい競争の中にあって、日本は競争から遅れはじめ、借金は増え続け、若者たちがその負担をせざるを得ないのが、今の現実です。

大学の質向上は、そのまま日本の質向上です。僕の論理が正しいかどうか、日本で機能するかどうかはさっぱり分かりません。ただ、米国で起こっている現実は、文字通り現実です。このコラムを読んでグリグリ検索してもらい、事実を確認してみてください。そして、広く大きく議論してください!

大学スポーツに携わるすべての学生やOB、OGたち、そのモヤモヤしたエネルギーの矛先が、オープンな議論を通じて、正しい方向に一本化されていくことを心から期待しています!

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる。

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