ジャパニーズウイスキー クラフト蒸留所が競う(熱撮西風)
世界で高い評価を受けるジャパニーズウイスキー。財務省の貿易統計によると、2017年の輸出額は136億円で10年前の約11倍だ。大手メーカーが原酒不足に苦心する一方、小規模な蒸留所の新設や改修が各地で相次いでいる。蒸留設備や熟成環境の違いが多彩な味わいを生み出すウイスキー造り。クラフト蒸留所が個性を競う。
世界共通言語に挑戦したい――。1883年創業の焼酎蔵元、小正醸造(鹿児島県日置市)は昨年11月に嘉之助蒸留所を新設した。これまで焼酎の輸出に取り組んできたが、酒文化の違いもあり苦戦が続いていた。世界のウイスキー市場を見渡せば、英米をはじめ各国でクラフト蒸留所が次々と登場している。「焼酎にこだわってはいられない」(小正芳嗣社長)と、総工費約10億円を投じた。蒸留所の顔ともいえる蒸留器は3基で、ラインアームと呼ばれる上部のパイプの角度が異なる。上向きなら軽く華やか、下向きなら重くコクのある味わいと、それぞれの特性を生かして多様な原酒を造り出す。これまでにおよそ200たる分にあたる約10万リットルを仕込んだ。東シナ海に面した貯蔵庫で眠る原酒を前に、「海風香るウイスキーになればいい」と小正社長は期待を込める。2020年末以降に3年熟成のシングルモルトを出荷する予定で、フランスなど欧州での販売も目指す。
クラフトビールを手掛ける長浜浪漫ビール(滋賀県長浜市)は2016年11月にウイスキー製造免許を取得。同社のレストラン内に全国で最小規模となる長浜蒸留所を開設した。ポルトガル製の蒸留器はひょうたん型で、銅に触れる面積が大きく不純物を取り除く効果がある。すっきりとしながら甘みのある味わいが特徴だ。原料の麦芽や製造工程に共通点があるビール用の設備も活用する。たる熟成前の原酒も商品化し、レストランではハイボールにして提供している。蒸留の様子を見ながら飲食を楽しめ、米国や中国などからのインバウンド(訪日外国人)の姿も増えてきた。
日本酒蔵元の若鶴酒造(富山県砺波市)は1952年から北陸で唯一、ウイスキーも製造してきた。昨年、老朽化が激しかった三郎丸蒸留所を大幅に改修した。総工費約1億円のうち、3825万円をクラウドファンディングで調達。建屋を修理し設備を増強した。蒸留器の上部をステンレスから銅に換えたが、酒質が変わらないよう形状はそのまま。地場産業である高岡銅器の職人にも協力を仰いだ。冷涼な地下水で原酒を仕込み、山に囲まれた湿潤な風土でおだやかに熟成が進む。今年からは県内産のミズナラで作ったたるも使い始めた。
2008年に埼玉県で秩父蒸留所を立ち上げ、クラフト蒸留所の先駆けとなったベンチャーウイスキーの肥土伊知郎社長は「味の違いを楽しむのがウイスキーの醍醐味。小さい蒸留所が良い物を造って、ジャパニーズウイスキーの評価を維持、向上していければ」と話す。
(大阪写真部 山本博文)
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