中古マンション、古くても駅近物件が人気
20代からのマイホーム考(21)
中古マンションを選ぶとき、最寄り駅から少しでも近くを、築年数はできるかぎり新しいものをと考える人は多いと思います。しかし両方を狙うことは予算的にも難しく、どちらを重視すべきか悩んでしまうという人も多いかもしれません。マンションは最寄り駅から近いほうが価格は高くなる傾向があります。一方で、築年数が経過するとその価値が低下する傾向にあります。この傾向を定量的につかめば、市場の動向を読み解けます。最近は、多少古くても最寄り駅に近い物件が好まれる傾向が強まっているようです。
駅からの距離、強まる価格への影響
公益財団法人の東日本不動産流通機構に登録されている東京23区内の中古マンション成約データ(2007年1月から20年12月までのデータ約16万3500件)から、最寄り駅からの徒歩距離が1分経過するごとに、また、築年数が1年経過するごとに、価格はどの程度下落するのか調べてみました。
まずは最寄り駅からの徒歩時間が1分経過すると価格は何パーセント変化するかを示すグラフをみてみましょう。07年から14年までは最寄り駅からの徒歩時間が1分延びるごとに、価格は1.2%程度下がるという傾向が続いていました。しかし15年ごろからその影響力が強まり、19年には1.6%弱下がるまで影響力を強め、20年も1.5%強下がるという結果になっています。
駅近くにタワーマンションなどが建築され、その中古物件が売り出されるようになったことから、駅近くの成約単価が高くなったことが一因と考えられますが、駅に近いマンションのほうがより高い評価を受ける傾向が強まったのは明らかだと思います。
価格への影響弱まる築年数
一方、築年数による価格への影響はどう変化してきたのでしょうか。築年数が1年経過すると価格が何パーセント変化するかを示すグラフをみてみましょう。12年までは築年数が1年長くなると価格が2%程度下がっていましたが、13年以降はその影響力は弱まり、17年以降は1.6%程度の下落となりました。20年はさらに影響力が弱まり1.5%強の下落となっています。
このように、最寄り駅までの徒歩時間が価格に及ぼす影響力が強まってきた一方で、築年数が価格に及ぼす影響力が弱まってきたことから、古いマンションであっても、最寄り駅により近いマンションが市場では好まれる傾向が強まっているということが分かります。
最寄り駅から少々離れた物件はお得?
21年1月と2月の23区の中古マンション成約データを分析してみると、築年数は1年経過すると1.5%の下落と20年とさほど変わりはありませんでした。一方、最寄り駅までの徒歩時間は1分遠くなると1.7%の下落とさらに影響力を強めていることが分かりました。この期間はデータ数が2500件程度しかないためそのままうのみにはできませんが、最寄り駅までの距離は今後もその影響力を強めていくのかもしれません。コロナ禍の影響で、郊外の一戸建てを志向する方が増えているといわれていますが、20年以降の中古マンション需要は相変わらず旺盛で、マンション需要者は最寄り駅への近さをより強く要求しているようです。
このように、古くても最寄り駅に近い物件が好まれるという傾向は、まだまだ続きそうです。一方で、最寄り駅からは少々離れているものの比較的新しいというマンションは、従来に比べてお得感がある物件となっている可能性があります。歩くことが苦ではない、ちょうどよいトレーニングになると考えている方にとっては狙い目かもしれません。
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。
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