タベルモ、調達17億円で描く「藻が世界を救う」
藻を活用した健康食品を開発するタベルモ(川崎市)が5月22日、産業革新機構や三菱商事から17億円を調達したと発表した。ベンチャーキャピタルの用語で初期ステージの企業への投資を意味する「シリーズA」では、2018年で最大級の金額となる。藻の力で世界の食料問題に挑むとする佐々木俊弥社長に、今後の事業計画を聞いた。
――シリーズAで17億円は異例の大型調達となります。用途は何ですか。
「藻の一種である『スピルリナ』の量産工場を東南アジアのブルネイに建設する。19年夏には本格稼働の見通し。現在は静岡県の工場で年間100トンを生産しているが、新工場ができれば生産量が10倍になる」
――新工場の強みは。
「赤道近くの地域は日射量が豊富で、藻類の生産に向いていると思われがちだが、むしろ、日光が強すぎたり、スコールなどで栽培池に水が入りすぎたりするなど、生産が難しい」
「当社では、藻を育てる水を袋に入れて、物干しざおからぶら下げるような独自の形式でスピルリナを生産する。藻に当たる光の量が分散し、育成にちょうどいい環境を得られる。袋は防水加工をして封をするため、大雨の影響もほとんど無い」
――食糧危機から世界を救うと主張されています。
「人類が必要とするたんぱく質の量が、世界人口の増加で家畜や植物などからとれる量を上回ってしまうのが『たんぱく質クライシス』だ。東南アジアやアフリカを中心に人口は増え続け、50年には世界人口が90億人を突破するとみられる。現在のたんぱく源である家畜や植物の生産量の増加よりも2倍近く早いペースで需要が伸びている。30年ごろにはたんぱく質の供給量が追いつかなくなる。生産コストも高い」
「藻類は、生産面積あたりのたんぱく質の生産効率が絶大だ。ブタが1ヘクタール(1万平方メートル)あたり185キログラムなのに対し、藻類は10トンを超える。中でもスピルリナはたんぱく質の含有量が他の藻類と比べて多い」
――健康食品としても注目されそうです。
「スピルリナは抗酸化物質やビタミンなども豊富に含まれ、サプリメントとしての需要も大きい。営業担当者の増員も資金使途の1つだ。まずはスピルリナを活用した食品の市場を開拓したい。生産量が拡大すれば、一般の野菜としての地位も得られる」
「次のステージでは、付加価値が高いたんぱく源としての普及を進め、最終的には汎用性が高いたんぱく源として製品展開していきたい。将来、1000ヘクタールの工場ができれば、スピルリナの生産コストを大豆クラスまで抑えられる」
■ ■ 記者の目 ■ ■
セレンディピティーという言葉がある。「予想外の幸運」と訳され、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹筑波大学名誉教授や鈴木章北海道大名誉教授らが受賞後に発言し、有名になった。タベルモにも、セレンディピティーが訪れた。
これまで健康食品として市販された乾燥スピルリナはえぐみが強く、サプリメントとしてしか活用が進まなかった。だが、育ったスピルリナを試しに生で食べたところ無味無臭であることに気付いた。殺菌工程の加熱処理で藻の細胞や構造などが変化し、苦みが生まれることが判明。製造工程を工夫して熱処理以外の殺菌方法を考案した。そこで生まれたのが無味無臭のスピルリナ。偶然の試食から生まれたタベルモの屋台骨だ。
藻は、ウシやブタなどのたんぱく源の代替となり得るか。健康的だが肉とは縁遠い「緑の藻」というイメージを払拭することが重要だ。タベルモはスピルリナの緑色を抜く技術も併せ持つ。アイスクリームやジュースに混ぜてもほとんど違和感なく楽しめる――。そんな販売戦略が求められる。 (矢野摂士)
[日経産業新聞 2018年6月12日付]
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