米中、対北朝鮮の金融封鎖で足並み
制裁強化、過去には効果
【ニューヨーク=永沢毅、北京=原田逸策】トランプ米政権は21日、金融制裁を軸にした北朝鮮への独自の追加制裁に踏み切った。国連を超えた制裁に慎重だった中国も事実上、金融制裁に動き出した。米中は原油や石油製品の制限に加え、ドルや人民元の金融システムからも北朝鮮を排除して圧力をかける。
「犯罪的な『ならず者国家』を、他国が金融支援するのは受け入れがたい」。トランプ大統領は21日、追加制裁の大統領令に署名し、こう語った。「中国人民銀行(中央銀行)が中国の銀行に北朝鮮取引の即時停止を命じた」とも述べた。
従来は北朝鮮の大量破壊兵器の開発につながると疑われる企業や個人が制裁対象だった。今回は幅広い分野で北朝鮮と取引する企業に網を広げた。金融制裁も北朝鮮との取引があるだけで対象となり、条件は厳しい。
ペンシルベニア州立大教授で元米国務省アドバイザーのジョセフ・デトマス氏は「制裁の選択肢の中で最終段階にきており、軍事挑発の前兆になる」と指摘する。
北朝鮮と関係のある第三国の銀行などを対象とした制裁は「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」と呼ばれる。米国はブッシュ政権の2005年、マカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)を資金洗浄の懸念先に指定。米国内の金融機関にBDAとの取引も禁じた。BDAは北朝鮮関連の口座を凍結し、主要国の金融機関も北朝鮮との取引に慎重になった。
この措置は当時の北朝鮮に大きなダメージを与えた。輸出代金の受け取りが難しくなり、輸入代金の支払いに充てるドルも不足。米国は、核開発を続けたイランにも二次的制裁で金融取引などを制限。イランとの核合意につなげた。
中国政府はトランプ氏の発言を否定しているが、金融制裁を事実上強化した。ロイター通信によると、人民銀は9月中旬、北朝鮮籍の新規顧客との取引を禁じ、既存の貸出金も減らすよう求める通達を商業銀行に出した。日本経済新聞の取材でも、中国の大手銀行は北朝鮮籍の口座取引を昨年から段階的に制限し、8月末までに入金や送金を止めた。今回はその延長線上といえそうだ。
中国の大手銀は海外進出を加速しており、米国で取引できなくなれば打撃は計り知れない。6月に米国が中国の地方銀行である丹東銀行に制裁を科した時も「米国は『次の制裁対象は大手銀行』という見せしめ効果を狙った」(外交関係者)との見方が多かった。
中国では最近まで身分証と携帯電話番号があれば簡単に口座を開けた。ひとつの銀行に複数の口座を持つ人も多く、中国人から休眠口座を借りれば取引できる。中国では電子マネーの急激な普及でいまや個人間の送金に銀行を使わない。銀行が把握できるお金の流れは急速に細っている。
北朝鮮は異例の中国共産党系メディアの批判を展開しており、事実上の金融規制強化にも反発するとみられる。
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