郵政株、売却シナリオ暗雲 かんぽの不適切販売で
かんぽ生命保険で多数の不適切販売が見つかった問題で、政府による日本郵政株の売り出しに暗雲が垂れ込めている。東日本大震災の復興財源の確保のため2022年度までに売却しなければならず、主幹事証券の選定は済んでいる。秋にも売却するとみられたが主要子会社の不祥事で不透明になった。不適切販売では経営責任や行政処分も今後の焦点だ。
政府は郵政株の持ち分を現在の57%から郵政民営化法が規定する下限の「3分の1超」に下げると4月に発表した。5月には主幹事証券を選んだ。消費増税や英国の欧州連合(EU)離脱で市場が動揺しかねない10月より前の「8月末か9月に売るだろう」との予想が市場では多かった。
かんぽ生命の問題発覚で状況は一変した。同社は新旧契約の重複加入による保険料の二重取りなど9万件を超える契約で顧客に不利益を与えた可能性がある。10日には植平光彦社長が謝罪した。かんぽ株の11日終値は1795円と15年11月の上場以来の最安値を更新した。9日終値から225円(11%)も下がった。郵政株も1195円と26円(2%)下げた。
政府が手放せる郵政株は10億株あまりだ。目標の1.2兆円の復興財源確保には少なくとも1株1130~1140円で売る必要がある。市場価格からの割引率を加味すれば危険水域にある。
財務省は現在も「できるだけ早期に郵政株を売却する」としているが、市場では「秋の実施は難しい」との見方がある。
郵政民営化法で、日本郵政は傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命の全株売却を目指すとしている。投資家の評価が低いままでは売却に影響が出る。
経営陣が問題を認識した時期や責任の取り方も焦点だ。10日の記者会見でかんぽの植平社長と日本郵便の横山邦男社長は顧客の救済や追加調査をやりきると主張。そろって辞任を否定したが、調査結果が出て顧客への対応が一段落した段階で、経営陣の責任が問われそうだ。
郵政は4月、保有するかんぽ生命株の2次売却をした。売り出し価格は1株2375円だった。不適切販売を認識しながら売ったとすれば、投資家を裏切る行為として問題になりそうだ。
8日に発覚した保険料の二重徴収や無保険の問題については、かんぽ生命は14年ごろから調査をしていた。一部の顧客には新契約の取り消しや旧契約の復元などの対応をしていた。
こうした対応はかんぽや郵政の経営陣も認識していた可能性がある。植平社長は10日の会見で「顧客に不利益が発生している現状は直近の調査で判明した」とし、問題の認識は売り出し後だったと説明した。
金融庁がかんぽ生命と日本郵便に対して業務改善命令などの行政処分を出すかも注目だ。処分が出れば両社の経営陣の責任を問う声が一段と高まるのは必至だ。
不正の全容解明には時間を要するとみられる。両社と郵政は近く第三者委員会を設置し、調査結果を12月をめどに公表するという。金融庁は第三者委の調査状況を踏まえ、保険業法に抵触しないかや両社の内部管理体制を精査し、処分の是非を判断する方針だ。