ベトナム、火力に商機 三菱商事が大型発電所計画
原子力発電所の建設中止を決めたベトナムで火力発電所の建設が加速している。三菱商事は19日までに、ベトナム中部に大型の石炭火力発電所を建設する計画を明らかにした。丸紅や住友商事など日本勢のほか、中国企業の建設計画も相次ぎ、2030年には現在の2.5倍の51カ所に増える見通しだ。原発から火力発電への方針転換は、関連企業にとって新たな商機をもたらしそうだ。
三菱商事は中部ハティン省の経済特区に発電能力120万キロワットの石炭火力発電所「ブンアン2号」を建設する。21年の稼働を見込み、ベトナム政府によると総投資額は22億ドル(約2500億円)に上る。一定期間、運営も担い、最終的にベトナム電力公社に引き継ぐ。
隣接地には現地企業が建設した同規模の発電能力を持つ「ブンアン1号」も稼働する。両発電所で、建設中止した原発の約6割の電力をまかなえる計算で、一躍、ベトナムの電力供給の中核を担う重要拠点となる。
ベトナム政府は、原発を電力不足解消の「切り札」と考えていた。08年のリーマン・ショック以降の成長鈍化で需給はやや改善したが、6%台の高成長が続く同国では、将来的な電力不足への懸念が常につきまとう。
それだけに日ロの支援を受けて、南部ニントゥアン省で28年に稼働予定だった計400万キロワットの原発への期待は大きかった。だが、270億ドル(約3兆800億円)とされる巨額な建設費や、福島第1原発の事故以降の住民の反発が壁となり、昨年11月の国会で計画中止を正式決定した。
原発に代わり、期待が高まるのが石炭火力発電所だ。ベトナム国内では良質の石炭が採掘でき、16年の産出量は3830万トンに上る。原発はもちろん、液化天然ガス(LNG)火力発電所に比べても初期費用が安い。公的債務が国内総生産(GDP)の65%と財政状況の悪いベトナムも導入しやすい利点がある。
ベトナム政府の計画では約20カ所ある石炭火力発電所を20年に32カ所、30年には51カ所に増やす計画だ。全電力に占める火力発電の構成比は16年時点で33%だが、30年に45%に引き上げる。石炭火力による発電能力は30年に現在の3倍近い4千万キロワット前後に増える見込み。同国の発電能力の1割前後を担うとみられていた原発なしでも需給逼迫の恐れは薄れる。
日本企業はここに商機を見込む。三菱商事はハティン省のほか、南部ビントゥアン省でも大型の石炭火力発電所を計画する。丸紅も港湾都市として発展が期待されるハイフォンの隣に石炭火力を建設中。住商はホーチミン市に近い南部チャビン省に建設中だ。
原発建設は1基でサプライヤーを中心に300~500社が関わるとされる。受注を見込んでいた日本勢にとって建設中止の影響は大きかったが、得意とする火力発電で挽回を狙う。
ライバルは低コストを武器に攻勢をかける中国勢だ。規模こそ大きくはないが、ベトナムで計画される石炭火力発電所の受注先の9割近くが中国企業とされる。最近ではロシア企業、マレーシア企業も大型石炭火力発電所に参入しているほか、中国企業と連合を組む企業も増えており、受注競争に拍車がかかる。
日本は発電効率が高く、環境負荷が少ない発電技術で勝負する。ベトナムでは昨年4月、台湾塑膠工業(台湾プラスチック)の製鉄所建設地で公害事件が発生。環境意識が高まり、石炭火力発電所建設への反対も増える。コストは課題だが、日本の技術力が着目される可能性はある。ベトナムエネルギー協会のチャン・ビエット・ガイ会長も「原発計画がなくなった以上、火力発電に頼るしかない」と話す。