ニトリHD、島忠へTOB 1株5500円で
ニトリホールディングス(HD)は29日、ホームセンター大手の島忠をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化すると発表した。島忠には同業のDCMホールディングスもTOBを実施中だが、同社より3割上回る1株当たり5500円を設定し、約2100億円を投じる。島忠はDCMのTOBに賛同しており、ニトリが対抗する争奪戦に発展した。
同日、東京都内で会見したニトリの似鳥昭雄会長は「島忠はホームセンターなど当社にない物も全部やっている。『お値段以上の島忠』と喜ばれるのでは」と、完全子会社化による相乗効果が高いと語った。
買い付けは11月中旬から始める。島忠に対してはDCMが10月5日から11月16日まで1株4200円でTOBを実施しているが、ニトリHDの買い付け価格は1300円上回る。
ニトリHDは8月末時点で2330億円の現預金を保有しており財務には余裕がある。買収資金はこの豊富な自己資金と、一部をみずほ銀行からの借り入れでまかなうとしている。
島忠の純資産は約1800億円あり、ニトリはDCM側の買収額を割安と判断したようだ。似鳥会長は「直接会って会話をすれば、聞いてもらえるのでは」と強調した。
ニトリは29日付で島忠に対してTOBを提案した。これを受けて、島忠は同日「TOBを検討する」と発表した。特別委員会を開いて提案に賛同するか判断する見通しだ。ただ、ニトリは島忠の取締役会と特別委員会の賛同が得られなくてもTOBを始めるとしており、島忠がニトリの提案を拒否すれば、敵対的買収に発展する。
ニトリは島忠の警戒心を下げるために、会見では友好的なTOBであることを強調した。ニトリの会員約4千万人を生かして相互で送客するほか、プライベートブランド(PB)の共同開発もできるとした。白井俊之社長は「経営体制は取締役の派遣も選択肢にあるが、島忠との協議で決定する。従業員の雇用形態も変えない」と訴えた。
ニトリが敵対的TOBを辞さない強い姿勢で臨んでいるのは、島忠の店舗の9割が東京など都市部に集中しているほか、新型コロナ下でニトリにないホームセンターの需要が伸びているためだ。昨秋には同じく都市部に強いホームセンターのLIXILビバの買収に乗り出したが成立しなかった。
今後は島忠とDCMの対応に焦点が集まる。島忠はDCMの買収提案に賛同しているが、買収価格はニトリを下回る。経営陣は少数株主を含めて最適な売却先を選ぶ義務を負っている。仮にニトリ側のTOBに反対する場合、合理的な説明が必要になりそうだ。
島忠には旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスが発行済み株式の約8%、英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズが約5%(いずれも10月時点)を保有するなど、物言う株主もいる。
DCMは現時点で1株4200円という買い付け価格は維持する姿勢だ。「価格は合理的に算出した。我々は粛々と進める」(関係者)とする。ただ、既にDCMのTOBに応募した株主も、改めてニトリ側のTOBに応じることができる。TOB期限の11月16日までに価格の引き上げなど対抗措置を示すことができなければニトリが有利となりそうだ。
ニトリにとって島忠のTOBは創業以来初めての大型M&A(合併・買収)になる。似鳥会長は島忠のTOBの成立に関して「勝算がある」と強調する。島忠を巡る異例の争奪戦の行方は、ニトリとDCMの双方の今後の成長を大きく左右する。
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