散逸免れたプライス氏旧蔵品、日本美術ブームの源流
出光美術館、若冲や応挙など約190点を購入
出光美術館(東京・千代田)が江戸絵画の収集で知られるエツコ&ジョー・プライス夫妻のコレクションの一部、約190点を購入したと発表した。伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」、円山応挙「虎図」をはじめとする一級の江戸絵画や、酒井抱一「三十六歌仙図屏風」など江戸琳派の優品が含まれる。今年、経済学者のピーター・ドラッカー旧蔵の水墨画など約200点が千葉市美術館に寄託されて話題を集めたが、メアリー・バークら著名な米国人コレクターが収集した日本美術の多くが今も米国にある中で、プライス氏の旧蔵品がまとめて日本に里帰りする意味は大きい。
プライス氏は1963年の初来日以降、日本人のエツコ夫人とともに日本の美術品を収集してきた。その9割以上が江戸期の絵画で、若冲や曽我蕭白らの作品に「当時の日本人の大半がまだ気づいていなかった新しい価値」(美術史家の辻惟雄氏)を見いだし、現在の日本美術ブームの基盤を築いたといえる。自邸を若冲の画室になぞらえて「心遠館」と名づけ、収集した作品を日本美術の研究者らに惜しみなく開放した。辻氏は日本美術の優品が次々海外に流出することを憂いつつ、「そこはわれわれにとって、異国での旅の疲れを癒(いや)す、このうえない休養所・避難所でもあり、同時にその優れた江戸絵画コレクションを研究する場でもあった」とプライス邸の思い出を記している。
現在89歳のプライス氏は88年に米ロサンゼルス・カウンティ美術館にコレクションの一部を永久寄託。高齢となったことから残る美術品の行く末を考え始めたようだ。競売大手クリスティーズを通じて売却先を探す中、今年1月ごろには売却先として宗教系団体の名が美術業界で取り沙汰されたこともある。プライス氏が提示した条件は作品の散逸を防ぐため「一括購入」「江戸絵画の研究に役立てる」ことだったという。
いくつかの企業も購入に関心を示したが、江戸時代の禅僧、仙厓(せんがい)らの文人画や中国・日本の陶器などを所蔵する出光美術館は最良の選択だったのではないか。同館の笠嶋忠幸学芸課長は「江戸絵画を俯瞰(ふかん)できる作品群であり、発信力のあるものがコレクションに加わった」と話す。新収蔵品の一部をお披露目する特別展「凱旋帰国! 江戸絵画の華(仮)」は2020年9月から開催予定。
(窪田直子)