対ファーウェイで米欧に溝、EU、対中警戒は解かず
【ブリュッセル=森本学】次世代通信規格「5G」の通信網構築で、華為技術(ファーウェイ)など中国企業の製品を排除するかを巡って、米欧の溝が目立ってきた。欧州委員会が26日、加盟国に示した「勧告」では、米国が強く求めてきた同社製品の全面排除を見送った。米政府は同社製品の採用は同盟国間の軍事協力に影響するとけん制しており、通商問題などで対立する米欧の新たな火種となりそうだ。
「加盟国は国家安全保障上の理由から企業を排除する権利を持つ」。勧告はファーウェイ製品の採用の判断を各国政府に委ねる姿勢を鮮明にした。背景にはファーウェイへの対応を巡る加盟国間の温度差がある。
ドイツは特定の企業を排除しない方針を示したほか、イタリアは同社との連携に前向きな姿勢をみせている。ポルトガルでは2018年12月、5Gを巡って大手通信会社がファーウェイとの覚書の署名に踏み切った。
一方、トランプ政権との関係強化を目指すポーランドは同社の現地法人の男をスパイ容疑で逮捕するなど強硬姿勢を示している。加盟国間で同社への対応は大きく異なっており、EUとして共通の対処方針をまとめきれない事情があった。
一方、勧告では5Gのセキュリティー対策強化が「欧州の戦略的な独立性を確保するうえで決定的に重要だ」と指摘。EU一体で監視を強化することも呼び掛けた。名指しはしなかったものの、中国企業への警戒がにじむ内容となった。
具体的には、6月末までに加盟国に5Gの安全保障上のリスク評価を終えるよう要求。5Gの周波数帯の入札や関連する政府調達で落札業者に求める安全基準を強化することも促した。そのうえでEUレベルで情報を共有し、19年末までにEU共通の対応策での合意を目指す。
EU内でも5Gへの中国製品の採用に警戒感が根強いことが背景にある。中国製品の安保上のリスクを警告する米国に配慮したとの見方もある。欧州委のアンシプ副委員長は18年12月7日のブリュッセルでの記者会見で、ファーウェイなどの製品がもたらす欧州の安全保障上のリスクについて「懸念すべきだ」と語っていた。
ただ、EUがファーウェイの全面排除の見送りを示すことで、すでにぎくしゃくしている米欧関係がさらに悪化する可能性もある。米国防総省のロード次官は25日「同盟国や友好国がファーウェイ製品を採用すれば、機密情報をどう共有するか見直す必要がある」と強調した。
米国は「安全保障上の脅威がある」として欧州からの輸入自動車への追加関税の発動を検討中。北大西洋条約機構(NATO)の国防費負担を巡っても、トランプ米大統領は欧州加盟国が「責任を果たしていない」との批判を続けており、米欧の溝は深まっている。
米国は中国企業が安全保障上の脅威となっているとの見方を強めている。18年8月に成立した国防権限法ではファーウェイなど中国5社から米政府機関が製品を調達するのを19年8月から禁止し、20年8月からは製品を使う企業との取引も打ち切ることを定めた。ファーウェイは憲法違反だとして米政府を提訴している。