原油相場、急変の足音(一目均衡)
編集委員 志田富雄
今年に入り上昇基調を強めた原油相場は、4月下旬に欧州のブレント先物で一時1バレル75ドル(期近)を超えた。ただ、昨年10月の高値(ブレントで86ドル台)には届かず、先週後半には大きく下げる場面もあった。相場はこのまま下落局面に入るのか。
原油の上値が重かった要因はいくつかある。まず、サウジアラビアなどの産油国が減産を継続していることだ。
減産分はいざというときの増産余力を意味する。国際エネルギー機関(IEA)が5月に公表した統計によれば、石油輸出国機構(OPEC)の生産余力は日量で330万バレル(イランを除く)あり、210万バレルほどに減った昨年9月時点に比べ余裕がある。
加えて、米国の原油生産は4月に日量1200万バレル強まで増え、昨年9月比で50万バレル以上拡大した。
同時に、石油需要は世界経済の減速で伸びが鈍った。IEAの5月統計で1~3月の世界の石油需要は日量9908万バレルと4月統計から44万バレル下方修正された。そのうち39万バレルは中国を中心としたアジア地域の需要だ。
世界経済の減速による需要の停滞がより鮮明になれば、相場に下げ圧力が強まる。
しかし、市場には原油を再び高騰させる構図も残る。昨年10月の高値から原油相場が急落した発端は、米政府が対イラン原油制裁で日本など8カ国・地域に猶予期間を認めたことだ。その猶予は再延長されず、5月からイランの原油輸出は最大50万バレル程度に減ったもようだ。
それまでイランの原油輸出は日量125万バレル前後あったから、国際市場への供給はその分減少した。電力供給もままならなくなったベネズエラの原油生産は4月に日量83万バレルまで落ち込み、2月に比べ30万バレル強も減少した。
イランが船舶自動識別装置(AIS)を停止させた「幽霊タンカー」などでの輸出を増やす可能性はある。それでも、現時点ではイランとベネズエラの供給減だけで100万バレル前後に達し、減少分を産油国が減産緩和で調整しなければ需給は締まる。
増産の主役になるサウジは「昨秋に対イラン原油制裁の緩和ではしごを外されたことから、米政府の要請にすんなり応じるとは限らない」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之首席エコノミスト)。
原油と石油製品を合わせ、日量1800万バレル以上が行き来するホルムズ海峡の緊張が高まり、タンカーの航行が困難になる究極のリスクも市場にちらつく。
岡三証券の小川佳紀シニアストラテジストによれば、超低金利を背景に原油相場と日本株の相関関係は強まっている。「海外の投機家はリスクオンの場面で原油と日本株の先物を買い、円売りを仕掛ける傾向がある」という。
世界経済の減速が深刻になるケースでは、原油と株双方に売り圧力が増す。一方、中東異変で原油が急騰した場合には、市場も楽観論は維持できず、日本株との相関は崩れる可能性が高い。
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