米、イラン原油禁輸で適用除外を撤廃 中国は反発、輸入継続も
日本など取引停止、イラン 非公式の輸出ルート拡大か
【テヘラン=岐部秀光、ワシントン=中村亮】トランプ米政権が、イラン産原油の禁輸で一部の国と地域に認めてきた適用除外ルールを2日に撤廃する。イラン産日量100万バレル超の供給が減る計算で、各国は対応を迫られている。中国は反発、イランは非公式な取引ルートを探る。トランプ政権の強引な対イラン包囲政策は原油市場の波乱要因となる。
原油輸出はイランの国家収入の3割を占める。米はイランが核・ミサイルを開発する財源を遮断するだけでなく、周辺国でイスラム教シーア派民兵を支援する余力をそいで中東の安定につなげる戦略を描く。ポンペオ米国務長官は「イランが世界で破壊行為をする能力は確実におとろえていく」と強調する。
日量10万バレルを輸入する日本や15万バレルの韓国、30万バレルのインドなどは米国との関係に配慮せざるをえず、輸入継続は難しい情勢だ。欧州連合(EU)で適用除外の対象となっていたイタリアとギリシャもイランからの輸入は困難になる。これはドル制裁を回避するためにEUがつくった特別目的事業体(SPV)が機能しなくなることを意味する。
SPVが機能するには欧州からイランへの機械など輸出の代金に見合うイランからの輸入が必要で、EUは一定の原油の取引を見込んでいた。カーペットやピスタチオの輸入では、とうてい金額は釣り合わない。
2018年にイランから最も多い日量58万バレルを輸入した中国は、外務省の耿爽副報道局長が「単独制裁に断固として反対」と表明し、輸入を継続する考えをにじませた。中国のイランからの原油輸入には「債権回収」を名目としたものがあり、少なくとも一定量は継続が可能とみられる。
これに対し、米国は中国への圧力を強める見通しだ。ハドソン研究所のマイク・プレゲント上級研究員は「米中貿易交渉でイラン産原油の取引停止を求めるべきだ」と主張する。中国経済は米国の関税引き上げで打撃を受けており、譲歩が引き出せると読む。
トルコはロシアからの武器購入を巡って米国との協議のさなかにある。米国は交渉でイラン産原油の禁輸をトルコに要求するとみられる。トルコはすでにイラン産への依存を徐々に落としてきた。18年5月に輸入全体の51%を占めたイラン産の割合は19年1月に17%に下がった。イラクやアフリカ産原油への切り替えを急いでおり、足元でイラン産の輸入量は日量6万バレル程度とみられる。
米国の包囲網が狭まるなか、イランのロウハニ大統領は4月30日、「米国が知らない、6つの原油の輸出手段がある」と、対抗策を示唆した。米国はイランが原油タンカーの衛星通信スイッチを切り、出元が分からないようにしてアジアに販売していると疑っている。石油化学製品にして貨物として運ぶ手もある。密輸が横行しているとされるイランとパキスタンやアフガニスタンの間の貿易の実態は把握できていない。
イラン産の供給不安は原油価格を下支えし、制裁の痛みを緩和する面もある。イラン産は硫黄の成分が多い重質油が主流。同じく重質油であるベネズエラ産も政治混乱から供給が細り、重質油の価値が上がった。原油市場では軽質油のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)と、重質油連動の北海ブレント先物の値動きの差が広がる可能性がある。
中国は、原油や金融を対象とした米の対イラン制裁を、人民元の国際的な影響力を強める好機と見ているフシがある。18年3月に上海先物取引所グループが人民元による原油先物取引を始めるなど、ドルに代わる原油取引の決済通貨としての人民元の育成を急いでいる。制裁は米ドルの強さを見せつける半面、ドル支配の問題も印象づけている。
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