顧客管理の巨人、セールスフォースが日本を開拓
日本のスタートアップ企業に1億ドル(約110億円)を投じる計画を打ち出した米セールスフォース・ドットコム。顧客情報管理(CRM)の巨人は日本のスタートアップの現状をどう見ているか。セールスフォースのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)総責任者のジョン・ソモルジャイ上級副社長に聞いた。
――なぜ今、日本での投資を活発化するのですか。
「日本は2011年に投資活動を始めて以来、投資先40社のうち4社が新規株式公開(IPO)を果たした。米国と日本が最も投資リターンを得た国だ。一方で我々が重要視するのが投資先との事業シナジー。クラウドサービスのエコシステム(生態系)を共に作り上げ、より拡大するために過去の日本向け投資を大きく上回る1億ドルを投じる」
「日本のクラウドサービス市場はすさまじい勢いで伸びている。米系調査会社IDCは(複数の企業や個人がデータベースやソフトなどを共用する)パブリッククラウドの日本市場が22年に18年比2倍以上の130億ドルを超えるとした。市場の成長を確信している」
――具体的にどんな分野が投資対象ですか。
「我々のCRMと連結するソフトウエアの開発企業だ。マーケティングや顧客分析、業界特化型のソフト、さらに電子商取引(EC)などBtoCやBtoB領域で、例えば今年IPOしたクラウド勤怠管理のチームスピリットはセールスフォースのクラウド基盤で全てを開発し顧客数を伸ばした成功事例の1つだ」
――投資先をどう支援しますか。
「我々の顧客に投資先を紹介するほか、我々が運営するクラウドアプリケーションのマーケットプレイス(仮想商店街)上で販売する。セールスフォースのクラウド事業専門家の知見を生かし、効果的な値付けなども指南する。マーケットプレイスは世界市場向けもありアプリを現地語に翻訳して世界展開も支援する」
――日本のスタートアップの海外展開の課題は。
「日本のスタートアップは国内では非常に高い成果を出している。日本市場は巨大でそれに焦点を当てるだけで成功の余地は十分にある。一方でいくつかのスタートアップがアジアに進出しているが、言葉の壁などから現地の人に製品の効果などを的確に伝えられない点などで苦戦している」
――日本は中小企業が多くIT(情報技術)化が遅れています。
「これは大きなビジネスチャンスだ。我々の投資先も飲食店予約のトレタやクラウド会計ソフトのfreeeなど中小企業に焦点を当てたサービスが好調だ。中小企業向けサービスはより多く投資をしていく」
――インドや中国には投資しないのでしょうか。
「今のところ注目していない。IT投資額が多い米国、日本、英国、フランス、ドイツ、カナダやオーストラリアといった7カ国が主な対象で、なかでも未来志向で新技術への適合が早い日本に注力したい」
記者の目
米セールスフォース・ドットコムの好調な業績が、クラウド上でソフトを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の世界市場での盛り上がりを投影している。2018年8~10月期の売上高は前年同期比26%増、20年1月期の売上高見込みは最大160億ドルで、年率20%超の成長率を維持する。
同社のビジネスモデルは日本の自動車産業とは正反対の発想に見える。日本の自動車大手は部品会社を系列化し自らをトップにピラミッド構造を作った。一方でセールスフォースは逆ピラミッド型。自らが提供するクラウドサービスを開発基盤として提供、派生するアプリケーションを作るスタートアップに次々と出資した。自らのサービスに関連するアプリケーションを出資先を使って充実させることでエコシステム(生態系)を形成し、急激な成長を遂げている。
米国に遅れてSaaS市場が盛り上がる日本。ユニコーン企業の創出には日本のお家芸である製造業にはない、セールスフォースのような逆三角の発想を持てるかが鍵を握りそうだ。
(京塚環)
[日経産業新聞 2018年12月18日付]
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