グーグルAI「囲碁・将棋・チェスを制覇」 米誌掲載
米グーグル系の英ディープマインドは6日、世界最強で知られる同社の囲碁向け人工知能(AI)を将棋とチェスにも適用し、両分野でも世界トップの実力を得たと発表した。「独学」で強くなるAI技術を汎用化して三大対局ゲームで王者の地位を手にした。今後はゲームで得たAIの知見を医療や省エネなど他分野に応用させていく方針だ。
米学術誌サイエンスがディープマインドのAIソフトウエア「アルファゼロ」の技術論文を掲載した。同AIは囲碁で17年に世界トップの実力を手にしていたが、同じアルゴリズムを使って将棋、チェスでも世界最強のソフトウエアをつくりあげたことが専門家のレビューを通じて証明された。
ディープマインドが手掛けるソフトの特徴は「強化学習」と呼ばれる手法を駆使して、AIが独学で能力を高めていく点だ。人間は将棋やチェスのルールを教えるだけ。その後は別のソフトを相手に数十万回単位で対局を繰り返し、高いレベルの駒の打ち方を学んでいった。
チェスでは世界最強ソフトとされる「ストックフィッシュ」と1000回対局して155勝6敗、残りは引き分けだった。将棋は「エルモ」と呼ばれる世界最強ソフトと競い91.2%の勝率を得た。囲碁は自社の「アルファ碁」と戦い勝率61%だった。
ディープマインドによると難易度が最も高いゲームは囲碁だが、将棋も「持ち駒があることでチェスよりもシナリオが複雑で難解」(同社)。それでもAIとして独学を始めて12時間程度で学習を終えたという。
アルファゼロは3つのゲームに対応したことでAIアルゴリズムの優位性を示した。チェスのストックフィッシュは数千ものプロの定石を「先生データ」として取り込み、それを基に最適な一手のシナリオを導いている。経験から学ぶアルファゼロは整理されたデータを先生として用意する必要がなく、汎用性を高めやすい。
ディープマインドはゲームの枠を超えた汎用AIの実現を目指す。カナダのモントリオール市で記者会見したデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)は「アルファゼロは次に向けたステップだ」と発言。医療や省エネなど「世界のより重要な課題の解決にアルゴリズムを活用したい」と述べた。
同社はAIでたんぱく質の構造を予測する「アルファフォルド」を3日に公表したばかり。また10月には日本の慈恵医科大学と組みX線画像から乳がんを見つける研究を始めると発表している。
アルファゼロがもたらしたもう一つの成果は、過去のデータやシナリオに頼らない新たなAIのあり方を研究者らに知らしめた点といえる。アルファゼロの100局分の棋譜を見た羽生善治竜王は「王将を中段に動かすことをいとわないのは今までの将棋理論にはなく、新たな可能性を示している」とコメントした。AIから創造性が生じれば、その用途は絵画や音楽などにも広がっていく。
英ケンブリッジ大学の博士号取得者など世界のエリートAI研究者が集まるディープマインドは2014年、グーグルが買収した。16年に囲碁AIソフト「アルファ碁」で韓国のイ・セドル九段に勝ち世界的な注目を集めた。
(モントリオール=中西豊紀、山川公生)