戦後75年、広島「原爆の日」 記憶の伝承課題
広島は6日、被爆から75回目の「原爆の日」を迎えた。広島市では「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」(平和記念式典)が新型コロナウイルスの影響で規模を縮小して開かれた。「被爆者健康手帳」を持つ全国の被爆者はピーク時から6割減の約13万6千人となり、平均年齢は83歳を超えた。原爆の記憶をどう伝承していくのかが改めて課題となっている。
広島市の平和記念公園で開かれた平和記念式典には被爆者や遺族、政府関係者ら785人が出席。海外からは83カ国と欧州連合(EU)の代表が参列した。新型コロナの感染防止のため座席は2メートル間隔で置かれ、参列者は例年の1割未満となった。
松井一実市長は平和宣言で、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約の締約国になるよう日本政府に求め、「被爆者の思いを誠実に受け止めてほしい」と述べた。核兵器の保有国と非保有国の橋渡し役を期待し、昨年までよりも強い表現で同条約の署名・批准を求めた。
新型コロナの脅威を引き合いに、核兵器廃絶には世界の「連帯」が重要と強調。19年秋に広島を訪れたローマ教皇や19年10月に亡くなった元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんらの言葉を挙げ、広島には「世界中の人々が核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて『連帯』することを市民社会の総意にしていく責務がある」と訴えた。
安倍晋三首相は「非核三原則を堅持し、各国の対話や行動を粘り強く促すことによって、核兵器のない世界に向けた国際社会の取り組みをリードする」と述べた。核兵器禁止条約には、昨年までと同様に触れなかった。
当初は出席予定だった国連のグテレス事務総長はビデオメッセージを寄せ、「核兵器の危険を完全に排除する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ」と語った。
式典では、この1年間に亡くなったり、死亡が確認されたりした4943人の名前を加えた原爆死没者名簿が原爆慰霊碑の石室に納められた。記帳された死没者総数は32万4129人となった。
長崎大核兵器廃絶研究センターの推定によると、今年6月時点の世界の核弾頭は計1万3410発。保有数はロシアが6370発で最も多く、5800発の米国が続き、両国で約9割を占める。世界の保有数は調査を始めた13年(計1万7300発)と比べて2割減少したが、1発の爆発規模は75年前と比べて格段に大きくなっている。
戦後75年となり、被爆者の高齢化と減少が進んでいる。
被爆者援護法に基づき被爆者と認定された人に交付される「被爆者健康手帳」の所持者は19年度末時点で13万6682人。最多だった37万2264人(1980年度末)と比べて6割減った。原爆投下時に広島市と長崎市の被爆地域にいた「直接被爆者」も8万5306人(19年度末)で、30年前の22万2259人(89年度末)から62%減少した。
記憶の風化の懸念も高まっている。被爆者の語り部である「体験証言者」は広島市と長崎市を合わせて83人(20年度)で減少傾向にある。近年になって被爆体験を後世に伝えようと証言者の活動を始めた被爆者も少なくないが、高齢などの理由で引退が相次いでいる。両市は被爆者から証言を受け継ぐ「伝承者」の育成に力を入れている。
(河野真央、上林由宇太)