脱プラの波、ストローから買い物袋へ H&Mや良品計画
ストローから始まった企業の脱プラスチックの取り組みが買い物袋に広がり始めた。衣料品世界大手のヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は13日、日本で買い物袋を紙製に切り替え、有料にすると発表した。良品計画も来春開店する「無印良品」で紙製を使う。環境問題などへの対応を重視する「ESG投資」に加え、消費者の意識も変わりつつあるためだ。
日本企業の脱プラの動きはこれまで外食店でのストローが中心だった。ただ、消費者から出る年400万トンの廃プラスチックのうちストローはごくわずか。買い物袋やスーパーなどで使うレジ袋の方が圧倒的に量が多いため、H&Mなどの取り組みが定着すれば脱プラの実効性が上がる。
「循環型のファッションビジネスは実現可能だ。世界2位のファッショングループとして何ができるか見せていきたい」。H&Mジャパン(東京・渋谷)のルーカス・セイファート社長は13日の記者会見で宣言した。12月5日から国内88店で使う買い物袋を順次、紙製にする。H&Mは日本市場でも中堅の位置づけで一定の影響力を持つ。
買い物袋、プラ製も紙製も20円
紙かプラスチックかにかかわらず、買い物袋1つ当たり20円の料金を設定。袋の消費量全体を2019年に18年の半分に減らす計画だ。20円のうち、製造コストを差し引いた金額を世界自然保護基金(WWF)ジャパンに寄付する。
H&Mは18年9月からは世界の各市場で買い物袋を順次紙製に切り替えている。日本もその一環だ。買い物袋以外でも、全製品の原材料を30年までにリサイクル素材か天然素材などに切り替える目標を掲げる。現在は35%超だという。
良品計画は13日、19年4月に開く東京・銀座の店舗で、買い物袋を原則として紙製にすると明らかにした。利用客の反応をみて他店への拡大を検討する。商品をつり下げて陳列するフックもプラスチック製から紙製に切り替える。靴下やレギンスから始め、19年度中に国内全店で実施する。
使い捨てされたプラスチックは川や海に流出すると環境汚染の原因になる。中でも紫外線などにより5ミリメートル以下になった「マイクロプラスチック」は魚や海鳥に害を与えかねず、対応は世界的課題と意識されている。
日本ではこれまで脱プラの動きは鈍かった。投資家や消費者がプラスチック問題をあまり意識しなかったため、企業も優先課題とはしなかった。
欧米企業が先行、ESG投資が圧力
ESG投資が広がる欧米の状況は日本と大きく異なる。米では6月、非政府組織(NGO)「As You Sow(アズ・ユー・ソウ)」の呼びかけで、プラスチックの削減を求める投資家連合ができた。運用資産額は1兆ドルを超える。アズ・ユー・ソウ自身も物言う株主として知られ、3月の米スターバックスの株主総会ではプラ製ストローの廃止を求めた。
10月末にインドネシアで開かれた海洋環境保全に関する国際会議では世界250社・団体がプラスチックごみを減らす共同宣言を発表した。「ザラ」を展開する衣料品世界最大手、スペインのインディテックスのほかスイスのネスレ、米ウォルマートなどが参加した。
日本企業からも脱プラは「真剣に取り組むべき問題」(セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長)「(脱プラを含む)社会の声に耳を傾け環境対応しないと生き残れない」(ファーストリテイリングの新田幸弘グループ執行役員)との声が出ており、今後は取り組みが広がりそうだ。
WWFジャパンの三沢行弘氏は「ストローに比べプラスチック使用量が多いレジ袋を減らす意味は大きい」と話す。
新たな規制も検討されている。環境省はレジ袋の有料化を含む使い捨てプラスチックの削減策を議論しており、スーパーやコンビニエンスストアなどを対象に20年度以降に義務化する方針だ。
企業にとって環境対応はもはやブランド戦略にとどまらない。温暖化ガス排出削減など他のテーマに比べてまだ新しい問題である脱プラにどう向き合うのかが問われる。
「エシカル消費」に広がり
消費者の変化も企業に環境対応を促している。欧米を中心に、原材料の調達や製造過程での環境負荷などに配慮した商品を好む「エシカル(倫理的)消費」が裾野を広げている。主役は1980年以降生まれのミレニアル世代とされる。英誌「エシカル・コンシューマー」によると、英国での16年のエシカル消費は813億ポンドと10年比で約1.8倍の規模に膨らんだ。
H&Mをよく利用するというフィンランド人のヘレナさん(32)は「衣類を買う際にまず見るのは環境配慮などの情報。デザイン性はその次ね」と話す。エシカル消費に対応した商品や店舗づくりは業績に直結する重要な要素だ。
H&Mの業績はこのところ苦戦が続く。17年12月~18年8月期の営業利益は前年同期比約3割減った。新興のネット専業のアパレルブランドに押され、他社に比べオンライン販売も出遅れた。持続可能性を前面に打ち出した経営戦略は、消費の中心である若者の心をつかむための挽回策でもある。(江口良輔、柴田奈々、ジュネーブ=細川倫太郎、シンガポール=鈴木淳)