豊洲で奮闘の「ターレ」、地味に進化していた
小型運搬車「ターレ」がこれほど注目を浴びた日があっただろうか。新たな首都の台所となる豊洲市場(東京・江東)が築地から市場移転し、11日に開場した。魚の入ったボックスなどを運び市場を走り回るターレが開場に先立ち、列をなして豊洲に向かう姿は壮観でもあった。ローテクに見えるこのターレ、少しずつ進化を遂げている。
ターレの正式名称は「ターレット式構内運搬自動車」。円筒形の動力部が360度回転し、小回りがきくのが特徴だ。国内では2017年10月に三菱重工業系のニチユ三菱フォークリフトとユニキャリアの2社が統合して発足した三菱ロジスネクストの「エレトラック」や、市場向けターレに強みを持つ関東機械センター(東京・千代田)の「マイテーカー」などがよく使われている。
豊洲市場への移転でターレは200台程度減っているという。その理由の1つと考えられるのが環境面の配慮だ。新たに豊洲市場で使われるターレは約2100台。その半数程度をおさめている三菱ロジスネクストは、「環境に配慮できるようエンジンで動く機種は置いていき、バッテリー式の機種のみ残されたのでは」(広報担当)と話す。
築地市場でバッテリー式のターレが普及し始めたのは15年ほど前といわれる。最近では電動化率が8割程度にまで高まり、市場で実施されたエンジン規制の前から使われていた古株が、今回引退することになったわけだ。水産や生鮮食品を扱う市場では排ガスやチリの発生は衛生的にマイナスになると判断されたようだ。
関東機械センターは移転に伴う新規需要として200台を豊洲市場に納入した。「(1990年代以降)築地市場の再整備を画策していた時にターレの電動化をすすめたことがあったが、今回でほぼ100%電動化になる。電源がたくさん必要なので、構内で充電の整備が必要だろう」(木下重男常務)。電動ターレの割合が増えれば、充実した充電インフラが豊洲でも不可欠となる。
見た目にはあまり分からないが、電動化したターレではさらに効率化が進められている。三菱ロジスネクストが13年以降じわじわと現場への導入を進めているのが、従来の鉛蓄電池からリチウムイオン電池にバッテリーを変えた新機種だ。リチウムイオン電池を採用することでパワーが上がり、登坂速度が約3割上がるほか、充電効率が改善し充電時間は従来の8時間から半分以下に縮まるため、電気料金の削減や二酸化炭素(CO2)削減にもつながる。鉛蓄電池で必要だったバッテリー液の補充がいらないのも手軽だ。
市場の移転で新しくなったのは施設だけではない。働くクルマも時代とともに進化している。
(企業報道部 西岡杏)