「小さい店」元気にする ITプラットフォーム
(藤元健太郎)
タブレット(多機能情報端末)の登場により、これまでパソコンを使うのが難しかった現場のIT化が急速に進みだしている。とりわけ小さな飲食店や小売店など、IT化が遅れていた分野が、注目すべき市場になってきている。
そうした中、リクルートが「Air(エア)レジ」というタブレット向けのレジをアプリで提供し始めた。タブレットレジはベンチャー中心に参入が相次いでいるが、リクルートは初期費用、月額費用とも無料にした。リクルートが得意とする「ホットペッパー」のようなメディアでの広告掲載料を増やしていくビジネスモデルだという。
従来型のPOS(販売時点情報管理)レジは専用端末で高価だ。小さい飲食店では、まだ紙で管理している店も多い。一人あたりの集客にどの程度コストをかけ、広告費をいくらにするか考える余裕がないのが実情だ。
だが、タブレットレジを導入すれば原価計算なども簡単になり、むしろ広告出稿をする店舗が増える――。これがリクルートの考え方だ。ホットペッパーのウェブサイト上には、消費者が店を予約できるようになる機能もある。レジで在庫や空席のデータを開示するなど、この予約機能を積極的に使ってもらおうとの狙いもあるようだ。
現在は使える機能がまだ限定的だが、今後も拡張していく予定だ。リクルートの担当者は「小さい店舗は雑務に追われて新規客の獲得など本当にやりたいことに時間を割けていない。今後はレジ機能だけでなく、会計、仕入れ、ホールスタッフ管理などの機能も考えていきたい」と話す。
こうしたタブレットで提供されるサービスは、エアレジをはじめ多くがクラウド上にデータが保存されるため、活用しやすくなる利点もある。例えば、飲食店の販売データが蓄積されれば、日本の中小飲食店の売れ筋情報などを共有することも可能になるだろう。仕入れ機能がつけば、共同購入なども視野に入るし、メーカー側が新規の食材を売り込むなどの提案も容易になるわけだ。
リクルートのサービスは、店側などの利用者にアプリ「Airウォレット」が提供され、リクルートポイントで顧客を誘客できる仕掛けもある。リクルートポイントは来春、ロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)の共通ポイント「Ponta(ポンタ)」と統合する予定で、顧客の幅広いライフスタイル全般の利用状況を分析したターゲティング広告なども可能になるかもしれない。
楽天も今月から実店舗向けに「Rポイントカード」を発行。今後、楽天スーパーポイントを使っての送客サービスを予定している。ネット世界は共通ポイントを介して、いよいよ実店舗に勢力を拡大しようとしている。
これまでIT導入が困難だった全国の中小規模の店にリクルートや楽天などが「プラットフォーマー」として様々な機能を低コストで提供することで、個人商店などのマーケティングなども劇的に変わる。レジに商品マスタを登録して在庫情報を書き込む。すると顧客がスマートフォン(スマホ)で商品を検索し、そのまま店舗に行って購入したり、EC(電子商取引)で買うかを簡単に選べるようになるだろう。
楽天の登場により日本中の小さい店がECで日本全国に販売できるようになった。第2ラウンドは、こうした小規模店のビジネスを効率化し、競争力を高める世界になるだろう。全国でシャッター商店街が増えるなど、小さい店には未来がないような暗い状況にあったが、新しいプラットフォーマーの登場で小さくとも個性的な店舗が再び多く生まれ、活躍できる時代が来るかもしれない。(D4DR社長)
〔日経MJ2014年10月10日付〕