突っ込みどころ満載 民主年金試算、理念見えず
民主党は10日、社会保障と税の一体改革調査会の総会を開き、一体改革後に導入を目指す新しい年金制度案について4通りの財源試算を公表した。2015年に消費税率を10%に引き上げるのとは別に、75年度にはさらに2.3~7.1%の上乗せが必要になる内容だ。民主党は週明けから各党に試算を説明し、消費増税を含む一体改革の与野党協議を呼びかけるが、自民・公明両党は慎重で先行きは不透明。あいまいさが残る試算には具体化へのハードルがなお残る。
消費税の増税幅は4通りもあるのに個人と企業の負担がどう変わるかは読み取れない、積立金の名目利回りは野党時代の民主党が批判した「4.1%」を前提にする……。新年金制度の財政試算は突っ込みどころ満載だ。
理由は制度の理念がふらついているからだ。少なくとも3つの疑問に答える必要がある。
第一は、最低保障年金の名にふさわしい支給範囲はどこまでか。民主党が政権公約として最低保障年金を打ち出したのは2004年にさかのぼる。自公政権が「百年安心プラン」と銘打った法改正後の参院選のときだ。8年たった今も肝心の支給範囲を決められない。
同党幹部は最低保障年金の原型はスウェーデンの「保証年金」だという。同国では保証年金の対象者は年金受給者の40%程度。大半がパート社員などとして働いていた女性だ。給付費ベースだと10年は年金給付総額の8%に満たない。あくまでも補完という位置づけだが、民主案にはばらまきのにおいが漂う。
第二は、所得比例年金に入ることになる今の国民年金の加入者の所得をどう捕捉するのか。自営業者は売上高から必要経費を差し引くというが、それが適正かどうかをつかむには、番号制度を取り入れるだけでは不十分だろう。実際の稼ぎより低く見せかける不心得者がいれば、最低保障年金の対象者をいたずらに増やすことにもつながる。
第三は、保険料はどう変わるのか。料率は15%と定めた。今の厚生年金・共済年金の加入者からみて負担は減るとみられるが、実際はよくわからない。保険料を折半する産業界の負担も同じだ。自営業者は「雇い主兼従業員」とみなされ、会社員の本人負担の2倍を払うという。よほど意を尽くして説明しないと、対象者は得心しないだろう。
試算が罪深いのは、年金改革による消費税の増税幅が独り歩きし、改革をより難しくしてしまう心配があることだ。納税者が一体改革による消費税の増税方針と混同すれば、財政再建への一里塚にすぎない10%への引き上げ方針にも悪影響をおよぼす。民主党は新年金の創設を一体改革の延長線上にある課題と定め、その理念と将来負担の大枠を早く示さなければならない。(編集委員 大林尚)