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行き過ぎたソーシャルゲーム GREEで不正行為の内幕

無法の「換金市場」と「射幸性」

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 旬の芸能人を起用した大量のテレビCMで華やかなイメージの「ソーシャルゲーム」。だが水面下ではゲームの枠を超えた異常な事態が進行していた。レア(希少)なカードを得るためギャンブル性の高い「ガチャ」に10万円以上もつぎ込むユーザー。それらを対象にネットオークションでカードを売りつけ、月間で数百万円を荒稼ぎするユーザー。ついにはカードが複製される不正行為も発覚した。莫大な金銭が動く一大「カード市場」の内幕とは。

きっかけはインターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」だった。

「カード増殖方法流出。これでいいかな? まあ間違ってても別にいーや、俺スーパーレア持ってないし(中略)増殖して転売する人が出てきています注意」――。

2月19日、日曜日の未明、ソーシャルゲーム関連のスレッドにこんな投稿が載った。不正行為の手順を示した告発だ。舞台は「TOKIO、ドハマリ中。ド、ド、ドリランド」のCMでおなじみの「探検ドリランド」。グリーが自ら携帯電話向けゲームサイト「GREE」で提供する人気のカードバトルゲームで、数百万人規模の登録ユーザーがいる。

投稿には、システムのバグ(不具合)を突いて、手持ちのカードをいくらでも増殖できる方法が記載されていた。次々と増殖に成功した証拠画像がアップされるなど、試したユーザーが狂喜乱舞。それが広くネット上に伝わり、一時、騒然となった。

売買が常態化、3カ月で約4億円が換金

ドリランドはより強いカードを集めながら宝を求めて探検を進めるグリーの看板ゲーム。時折、遭遇する「ボス」や「キングモンスター」と戦い、勝つと先に行ける。ただ、途中から勝つためには仲間の協力や、強いカードが必要となる。

強いカードは1回300円ほどの「ガチャ」を回せば入手しやすい。ガチャとは「ガチャガチャ」を模したカード販売のシステム。強いカードほど出現する確率が低く、ユーザーは出るまで何回もガチャを続けることになる。ゲーム提供会社にとっては、これが主な収益源。なかには10万円以上使っても入手できない希少な「レアカード」も存在し、保有するユーザーは羨望の的だ。

そうしたレアカードの複製が流通すれば、ゲームバランスが著しく崩れ、不公平感からユーザー離れが進む恐れがある。希薄化でレアカードの価値が下がり、ガチャの実入りも減ってしまう。屋台骨を揺るがしかねない憂慮すべき事態に、グリーは対応を迫られた。

19日昼、グリーは「不正利用が発生している可能性があるため、トレード機能を一時停止させて頂いております」と告知。カードが流通しないようにする応急措置をとった。その後、不正行為を確認したグリーは21日昼ごろから一部ユーザーの複製カードを順次、削除。アカウント停止などの処分を行ったうえで、21日18時ごろトレード機能を再開させた。

一応の収束をみた「ドリランド騒動」。しかし問題の根と尾は依然として残ったままだ。

「システムの不備を突いた増殖」という表層的な事象だけをとらえれば、従来のゲームでいう「裏技発見」で済む。だが今回の問題はそんな生やさしい話ではない。有価証券が何枚も偽造されるようなことが水面下で起きていた可能性が極めて高いからだ。騒動の背景を探ると「ゲームアイテムの換金が常態化」していたことが事態をより複雑に、そして大きくしていた。

ネットオークションにおけるドリランド関連の取引額は、驚くほど多い。

オークション情報サイト「オークファン」によると、過去90日間に「ヤフーオークション(ヤフオク)」で取引が成立したドリランド関連の落札件数は約5万8800件。額にしてじつに4億円超。単なるデジタルの「絵柄」が、月間1億3000万円以上も現金に換金されていた。同期間にカードを売却した出品者数は約3万5000人もいる。大多数の動機は「新たな強いカードを得るための軍資金にしたい」「ガチャへの投資を回収したい」「引退を機に換金したい」といった具合だろう。ところが。

3万5000人中、上位30人で1億2000万円超

「ヤフオクでの過去90日の『ドリランド』関連出品を調べたら、上位30人で1億2000万円の取引高。1000万以上の売り上げを出しているユーザーも2人いた」――。

不正行為が発覚した19日夜、モバイル向けアプリ開発などを手がけるアサップネットワーク(東京・品川)の西山圭社長のつぶやきがツイッター上を駆け巡った。西山社長がオークファンのデータを分析したところ、約4億円の4分の1強を3万5000人の上位30人が稼いでいることが分かった。

そのトップを誇る、熊本県を発送元とする「C」さんは、不正行為が発覚する数カ月前から一部の掲示板などでは有名な存在だった。

「新SSR 愛騎士リンコ 完全フルステ 技MAX」「大祓師セイメイ 水神 完全フルステ 超稀少」……。Cさんの過去の出品を検索すると、呪文のようなタイトルが無数に出てくる。だがドリランドを知る者には驚きの品ぞろえだ。並ぶのは550種類以上あるカードのうち最も人気が高い「SSR」のカード。「ノーマル」「レア(R)」「スーパーレア(SR)」のさらに上位で、希少性も強さも最上級を誇る。

「フルステ」とはカードが即戦力であることを意味する。ガチャで運良くレアカードを手に入れたとしても、そのカードが持つ攻撃力や防御力といったステータスは「レベル1」の状態。ユーザーは、潜在能力の上限値まで育てる必要がある。地道で膨大な時間と労力がかかるが、Cさんはそれすらも完了済みの最上級のカードを、昨秋から大量に出品し始めた。

1人で1500件、3100万円以上の落札総額

Cさんの売り上げは昨年11月以降、月間で550万円、850万円、950万円と推移。今年2月は不正行為が発覚した19日からぴたりと出品が止まったが、10日を残して770万円ほどに達している。ヤフオクに残る履歴を積み上げると、その数1500件超。金額は3100万円以上にのぼる。

もはや個人ユーザーのお小遣い稼ぎの域を超えた額。最上級のカードが次から次へと出てくる様を見て、一部ネット上の住民は「複製」を疑い始めた。疑惑が確信へと変わったのが、今年2月に登場した「ドリランド史上最強」を更新するレアカードの異常な出品である。

2月1日、グリーは「冬姫メイチェリ」という新たなSSRのカードを追加した。それまでドリランド最強といわれていたカードをしのぐ能力を備えるだけに、入手は困難を極める。これが、いきなり初日から大量に出品された。

Cさんはイベント開始後わずか数時間で、冬姫メイチェリをヤフオクに出品。約6万円の即決価格ですぐに落札されると、また同様の商品を次々と追加した。必死で入手した1枚だけなら分かるが、何枚も出てくると解せない。そのうち、ほかの出品者も参戦し、ヤフオクはメイチェリであふれた。

すでに噂されていた「複製」疑惑

Cさん最大のライバルとなったのが埼玉県を発送元とする「H」さん。即決価格をCさんより安い4万5000円~5万円とし、1日午前中から次々と売り始めた。出品から数分で即決落札が相次ぎ、Hさんの「時給」は一時、数十万円の勢いとなった。

「初日でSSR2枚以上出品してるのは全員、複製職人でよくね」「ほぼ複製確実か」「HもCも複製で私腹が肥やせるからアレだよな」……。掲示板の住民はすでに、この時点で複製方法があることを確信していたようだ。

数日も過ぎると、Hさんはメイチェリのステータスを最大まで育てたフルステや、それを複数枚売る「セット販売」も始めた。カード1枚あたり最高7万円、セットで最高25万1000円の販売に成功。2月1日から19日の期間、メイチェリだけで230万円ほどの売り上げを達成した。

知られざる換金市場の実態。だが、なぜこうも多くの客が存在し、数万円から十数万円という大金をはたくのか。不思議でならない読者も多いだろう。ここには、アイテムの「インフレ」で人気を維持しているソーシャルゲーム特有の背景が絡んでくる。

終わりのないソーシャルゲーム

ソーシャルゲームは、ボスを倒せば終了する従来のゲームとは違い、終わりがない。運営会社は新手のイベントを続々と用意し、出回る最強のカードよりさらに強いカードを投入していくことで、一度囲い込んだユーザーが飽きないよう工夫を凝らしている。必然と新たな最強カードは、より入手困難にせざるを得ない。つまり、よりお金がかかるということだ。

前述のように強いカードほど運任せのガチャで引き当てるのは困難。だが出現確率を下げるのには限界があり、100回引いて1回も当たらないようでは客離れを引き起こす。

そこで導入されたのが、出現確率がそこそこ低い特定のカードをガチャで何枚かそろえた(コンプリートした)ユーザーだけに、最新の「限定レアカード」をプレゼントするという手法だった。いわゆる「コンプガチャ」である。獲得までのプロセスが目に見える分、超低確率のガチャよりは心理的な壁が低くなり、「射幸心」をあおられやすい。

グリーはゲーム内での課金比率など詳細を開示していないが、ゲームに参加する全ユーザーの数%がこのコンプガチャに挑戦し、同社に莫大な収益をもたらしているといわれる。実際にどういうものなのか――。記者は、GREEで最も人気が高いとされる「ドラゴンコレクション(ドラコレ、提供はコナミデジタルエンタテインメント)」のコンプガチャを試してみた。

登録ユーザー数が550万人を超えるドラコレは、コンプガチャの草分けでもある。試したのは2月6日までの期間限定で開催されていた「コンプシート6」というイベント。1回300コインのガチャで指定されたレアカード6種類をそろえると、イベント限定の「Sレアカード」が賞品としてもらえる。

コンプガチャを体験、リーチまで1万円

スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の場合、クレジットカード決済を選択するとコイン購入は「1050円=1000コイン」から「1万500円=10000コイン」の範囲で選択できる。まずは1050円をカード決済し、1回のガチャで2枚のカードが得られる「Wガチャ」で挑戦。ガチャを回し、コインが切れたらまた決済と続けた。

1万500円を投資し、66枚を得た時点で、コンプ対象カードは「4枠」が埋まる。あと2枚。だが「1万円もあれば何が買えたか」と思いとどまった。負けてパチンコ屋を後にする心境だ。しかし……。

2月に入るとWガチャが「3択ガチャ」に替わっていた。1回300コインで、3枚から好きな1枚を選べるというもの。コンプを狙うにはお得だと感じ、再挑戦した。前回の経験から決済が面倒なので「3000コイン=3150円」を買う。最初のガチャ、1枚、2枚と出て、3枚目にコンプ対象カードが出現。「リーチ」に心が躍る。だが、そう幸運は続かない。

ガチャを回し続けるも、最後の1枚がいっこうに出ない。時折、いつもと違う演出に胸が高鳴る。だが、すでに引いていたコンプ対象カードを重複で引いただけ。コンプガチャは確率論的にも最後の1枚をそろえることが一番難しい。3150円分のコインはあっという間に溶けた。

熱くなり、ガチャを回すことに躊躇(ちゅうちょ)がなくなった。賞品を手に入れたい理由もあった。

少なくとも8万人がコンプガチャを達成か

ちょうど同時期、期間限定のゲームイベントが開催されており、5ラウンドごとに戦うボスが強すぎて先へと進めなくなっていた。コンプガチャでもらえる限定Sレアカードは、このボスに対して通常の20倍の攻撃力を発揮する特典付き。ゲームイベントは先に進むほど、レアなアイテムがもらえる。そのためにもコンプを達成しようと意を決し、ガチャを回し続ける。あと1枚だけ当てればいい。

だが、1050円、次の1050円、また次の1050円と計10回分の追加投資をするも、出る雰囲気すら感じられない。「もうやめよう」。心が折れそうになる。でも、また決済のボタンを押す自分がいる。すでに1万6800円も使ってしまった。後には引けない。「出るまでやってやる」。その直後だった。

次の1050円を決済した1回目、通算55回目にようやく最後の1枚を引き当てた。20倍の攻撃力を誇るカードを手に入れ、ゲームイベントを最終到達地点のボスに勝つまで進めた。イベント最終日には8万人ほどが最終地点にいた。つまり少なくとも8万人がコンプガチャも達成したと推測される。550万人中の8万人になれたという達成感と優越感。と同時に、単なるゲームのイベントに2万円近くも費やしてしまった自分に対する複雑な感情も襲ってきた。

ただ、掲示板などの情報ではこれでも安く済んだらしい。そしてドリランドのコンプガチャの難易度は、さらに上をいく。

ヤフオクで飛ぶように売れた冬姫メイチェリもまた、最新のコンプガチャの賞品。手に入れるにはかなりの覚悟が必要だ。「ガチャ代」が経費で落ちるはずもなく、記者は怖くて試せなかった。

「5万円」を安く感じる心理

1回315円ほどのガチャで特定の8種類のカードをそろえることが入手条件。グリーはガチャの確率やコンプまでの平均費用についても開示しないが、うち2種類は6種類よりもガチャでの出現率が低いとされる。運が良ければ数万円分の投資でそろうが、ユーザーの報告によると、おおむね10万円以上、運が悪ければ20万円分もガチャを回し続けないと達成できなかったようだ。

ドリランドのコンプガチャはこの2月で13回目を数え、回を重ねるごとに難易度が高くなっているという。しかもドリランドには、10回分の価格、約3150円で11回分のガチャを一気に回す「11連ガチャ」が存在する。10回やるだけで3万円。単価が高い分、10万円まで簡単にいってしまう。

ヤフオクで、なぜ多くの客が数万円もの大金をはたくのか。その答えがここにある。

コンプガチャの恐ろしさを知る者であれば、5万円だろうが安く感じてしまうのだろう。だから数万円という値付けでも大量の客がつく。複製方法をひそかに知っていれば打ち出の小づちを手に入れたも同然。不正な換金が容易に成立する素地ができていたのだ。

もっとも、ヤフオクで出品されたものが複製カードだったという確証がとれているわけではない。約90万人が参加するGREE内のトレード掲示板では、カードの交換が頻繁に行われている。ゲーム内の仮想通貨やアイテムなどが通貨として機能し、特定のカードを「いくらでも買い取ります」と募集する業者のようなユーザーも多数存在する。それがヤフオクで換金されているケースもあるだろう。

ただし冬姫メイチェリのような最上級のカードは流通量が極めて少なく、GREE内の掲示板でも入手は困難。複製できるバグの存在をグリーが公に認めた以上、複製カードがオークションにも紛れていたと見て間違いなさそうだ。「売り抜け」はまんまと成功したから騒動は収まらない。

いまだ尾をひく「ドリランド騒動」

グリーは今回、不正行為をしたユーザーを対象に「複製カードの回収」と「アカウント停止」で事態の収拾を図った。アカウント停止期間はユーザーによって1週間、1カ月と差があり、悪質な場合は無期限の停止処分が下されたと見られる。だが複製カードのすべてが回収されたわけではない。

今回、トレード機能が停止する以前に、複製したユーザーからほかへと移動したカードは回収されなかったようだ。グリー広報は「処分の詳細は言えない」とした上で、「明らかに規約違反と分かっているユーザーについては対応した」とする。オークションによって複製カードが販売されたとしても、受け取ったユーザーが悪いわけではないため回収できない。つまり「被害者」は出なかった。

複製したアカウントとは別のアカウントに移動済みだった複製カードも「保全」された。

複数アカウントは利用規約で禁止されているが、ゲームを有利に進めるために別のアカウントを持つユーザーは多い。携帯電話が複数台あれば簡単に実現可能だ。グリーの対処について掲示板には「やったもん勝ちw」「不正者大勝利で終わった」とちゃかす書き込みも。トレード機能の再開後、ヤフオクにはまた冬姫メイチェリなど大量のカードが出始めた。

一方で、正当にゲームを楽しみ、数万円、数十万円を課金してきたユーザーの怒りが、ゆがんだ形で露呈していく。ヤフオクでカードを購入したユーザーが購入元の個人情報を暴露。それをもとに住所や電話番号、家族の仕事などが次々と暴かれ、売り手に罵詈(ばり)雑言が浴びせられた。矛先はバグを残し、掲示板などで可能性が指摘されていても対応できなかったグリーにも向けられた。

多額のカネが生んだ憎悪。騒動はいまだに尾を引いている。そして、騒動の背景にある「換金市場」と高まるガチャの「射幸性」という2つの「根」も、手つかずのままだ。

事実上、容認の状態にあった「RMT」

じつは、グリーはアイテムを売買をする「リアルマネートレード(RMT)」を規約で禁止している。だが実際は活発に行われているのを知りながら、事実上「容認」の状態にあった。広報は「放置をしていたわけではないけれど、なくなっていない現状がある。今後の対応を含めて検討している」とするが、具体策は見えない。グリーは24日、「(RMTも含めた)禁止行為の監視強化を図り、禁止行為をGREE外から助長する事業者や個人へ厳格に対処する」と発表したが、効果は未知数。例えばヤフーに対し、どう厳格に対処するのか具体策が待たれる。

ソーシャルゲームでは、ユーザー同士の交流をうながすアイテムのトレード機能は必須。出品者は落札者に「取引のことはGREE内で一切言わず、無価値のアイテムを送ってください」と伝え、引き換えにすまし顔で商品を送るだけだ。グリーはGREE以外の場所で行われた「契約」を確認する術がなく、取り締まりは難しい。

RMTを規制する法律は存在せず、ヤフオクの利用規約にも違反していない。換金市場は何事もなかったかのように存続していくだろう。だが無為無策でいれば、またぞろ問題が噴出しかねない。

今回の騒動で分かったように、RMTは不正行為を助長する恐れがある。2006年にはパソコン向けオンラインゲーム会社の社員が不正にゲーム内の仮想通貨を増やし、1400万円をRMTで換金して逮捕される事件が起きている。ソーシャルゲームはユーザーの母数が大きいだけに巨額の詐欺事件に発展したり、反社会勢力の資金源の温床となったりする危険性もある。

ますますエスカレートするガチャの射幸性についても、議論が必要だ。

「パチンコですらこんなに使わない」

パチンコ店やゲームセンターなどの遊技場は風営法の規制下にあり、未成年の出入りや営業時間が限られる。パチンコやスロットは警察の監督のもと、出玉確率などの射幸性が厳しく管理されている。この2月に復刻した「ビックリマンチョコ」に入っているシールやスナック菓子のカードすらも、景品表示法によって出現率が定められている。だが、ガチャにはそうした制約がいっさいない。

2月16日に消費者庁で開かれた「インターネット消費者取引連絡会」の会合で、参加者が「ガチャに景品表示法違反の可能性がある」などと指摘している。だが、消費者庁表示対策課は「ガチャは取引に付随する景品ではないので景表法の景品規制には該当しない」と特に問題視はしていない。会合を取り仕切る政策課も「あくまで参加者のご意見。問題意識を持つ必要はあると認識しているが、今すぐ法改正をという議論は現状ない」と言う。

一方で、ネット上にはハマったユーザーの悲痛な叫びが転がっている。

「心理なのか何なのか、こんなゲームになんで金使っちゃうんだろ。あと300円くらいは、が地獄になる」「パチンコにも規制かけられるんだから、ソーシャルゲームも規制しろ。年齢制限ないから本当にタチが悪い」「19万使ってコンプしたんだが、パチンコですらこんなに使わない」……。

「ハマる大人が悪い」「子供に課金できる携帯電話を渡す親が悪い」という意見もあるだろう。だが射幸性は高まるばかり。「11連ガチャでレアカードゲットのチャンス!」「8枚集めると限定レアカードをプレゼント!」「次はレア以上確定!」……。カードの具体的な出現率や累計の課金額などを表示せず、あおる表現ばかりを目立たせている現状はフェアなのか。恣意(しい)的に確率を変動させる行為についてルールや監視の目を設けなくてもよいのか。議論が必要とされている。

内輪で訴訟合戦のソーシャルゲーム業界

11年10~12月期の連結営業利益はグリーが約225億円、DeNAが135億円。ともに3000万人規模の登録ユーザーを抱え、12年度、国内ソーシャルゲームの市場規模は3400億円を超える見通し。業界全体としても、消費者保護や健全性を担保する社会的責任が生じているといえる。

だが業界は一枚岩になるどころか、訴訟合戦で分裂の様相を呈しているのが現状だ。

2月23日、モバゲーの釣りゲームがGREEの看板ゲーム「釣り★スタ」に酷似しているとし、グリーがDeNAに損害賠償などを求めていた訴訟で、東京地裁はグリーの主張を認め、DeNAに対し配信差し止めと2億3460万円の損害賠償支払いを命じた。グリーの田中良和社長はかねてより「こんなことが許されるのか」と怒りをあらわにしていた。DeNAは即日、控訴した。

グリーは昨年、公正取引委員会がDeNAに対し独占禁止法違反で排除措置命令を下した件を根拠に、営業を妨害されたとして損害賠償を求める提訴も起こしている。田中社長は「罪を犯してでも勝てばいいんだという人が横行する社会になってきた」とし、DeNAが違法行為を続けていることをほのめかした。すると今度は、DeNAが名誉毀損で逆提訴するという泥沼の事態に陥っている。

「SAP」と呼ばれるソーシャルゲーム提供会社同士の内輪もめも増えてきた。昨年12月には、KLabがクルーズに対し配信差し止めと損害賠償を求める提訴をしている。いずれも自社の利益保護のための強攻策。1つのゲームだけで、多くて月間数十億円のカネを生むだけに各社は必死だ。ただ、数百万人という課金ユーザーがいてこその収益だということも忘れてはならない。

「インターネットを通じて、世界をより良くする」――。グリーの田中良和社長が掲げる社是だ。確かにソーシャルゲームは株式市場の活性化や雇用をもたらした。世界に進出できる一大産業へと成長した。だが本当に日本は良くなっているのだろうか。

(電子報道部 井上理)

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