たそがれ「経団連」銘柄、主役は中小型株
編集委員 北沢千秋
株式市場は様々な顔を持つ。株価指数を見れば、日本株はバブル崩壊後の最安値圏。指数の中でも特に下げが際立つのは、日本を代表する大企業30社で構成するTOPIX Core30だ。今年に入ってからは1998年4月の算出開始以来の安値を更新し続け、年初からの下落率は23%に達する。一方、少し長い目で個別銘柄の値動きに着目すると、小型株を中心にこんな市場環境でも株価が上昇している銘柄は少なくない。活力を失ったかに見える日本の株式市場でも、銘柄の新旧交代は静かに進んでいる。投資のチャンスもそこにある。
「過去10年間に株価が上がった銘柄は全上場企業のうち、どれくらいあると思いますか」。ひふみ投信を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人取締役は、個人投資家向けのセミナーなどでこう問いかける。正解は57%。東証株価指数(TOPIX)が26%下落したこの10年に、全体の6割近い銘柄は株価が上昇していたという。
上げ銘柄は時価総額300億円未満
興味深いのはその内訳だ。株価上昇銘柄を時価総額別で分類すると、時価総額が3000億円以上の大企業はわずか4%強(65銘柄)にすぎず、全体の4分の3(1118銘柄)を時価総額が300億円未満の中小型株が占めていた。この10年の株式市場を振り返ると、誰もが名前を知っている有名企業の株価は大半が下がり、知名度の低い中小型株の株価は堅調だった、ということになる。
藤野氏は「過去10年、日本の株式市場は低迷したというが、大きく値下がりしたのは大企業の株価。全体として見れば、この経済環境下で結構頑張ったと言えるのではないか」と主張する。
10年単位という期間で見ると、株価は売り上げや利益の伸びとほぼ連動する。ではなぜ小型株が優位なのか。藤野氏は主に2つの理由を挙げる。
1番目が規模の小さい企業の方が売り上げや利益を伸ばしやすいという「サイズ効果」。例えば同じ5%の増益でも、もともとの利益水準が1000億円の企業より1億円の企業の方が達成のハードルは低いというものだ。この10年を見るとインターネットや医療・福祉関連などの新しい産業が成長し、それにつれて大企業が見落としたり手掛けにくかったりするニッチな分野も広がった。新興企業などの成長機会は着実に増えているという。
2番目が「成長へのコミットメント」。大企業の多くが既存の市場でパイを奪い合うことや既得権を守ることに力をそいでいるのに対し、中小型の企業には「売り上げや利益の拡大に強いこだわりを持つ経営者が多い」。新興企業の経営者には、大企業の経営者が忘れたアニマル・スピリッツが今も息づいている、というのだ。
藤野氏によると、過去10年に大きく成長した企業は(1)グローバル(2)資源(3)デフレ(4)通信・インターネットという4つのキーワードでくくることができるという。今後、先進国を中心に世界経済の成長力がさらに鈍るとすれば、「デフレを成長のバネとして規模を拡大してきたファーストリテイリングやニトリなどは、世界市場でも勝ち組になり得る」と予想する。
日本株離れの象徴に
これからの10年も売り上げや利益を伸ばし、株価が上昇する会社は同じように現れるはず。藤野氏は「57%の銘柄が上昇する株式市場に投資して利益を上げるのは、神業を使わなくても十分可能」と強調する。
一方、不振を極める大企業の株価。流動性と時価総額で選ばれたTOPIX Core30の採用企業には経団連の会長、副会長を輩出してきた「名門企業」も並ぶ。かつては「優良株」と呼ばれた銘柄も多い。しかし今や海外投資家の売りを浴び続け、外国人の「日本株離れの象徴」のような銘柄となっている。自動車、電機、銀行、証券などを中心に、「多くの企業はこれから先、どうやって稼いでいくのかというシナリオが見えない」(マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏)と市場の評価は手厳しい。
個人投資家にとって、規模の大小や知名度は決して投資の評価基準にはならないことを改めて肝に銘じたい。
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