ホットスポットどう形成 放射性雲、北東の風と雨で関東へ
国環研など解析、降雨地点で汚染沈着
東京電力福島第1原子力発電所から出た放射性物質が、「ホットスポット」と呼ばれる局所的な高濃度の汚染域をつくる過程が明らかになってきた。気象条件や放射性物質の特徴を考慮し、コンピューターのシミュレーション(模擬実験)で汚染の広がりを再現する手法を使う。今後の汚染の広がりを予測するのにも役立つ。
国立環境研究所は東日本一帯への放射性セシウムなどの拡散を分析した。原子力安全委員会の公表データを使用。地上から高度60メートルまでで、放射性物質が集まってできる「放射性雲(プルーム)」の動きを計算した。
東日本大震災直後の3月11~14日は冬型の気圧配置で原発周辺は西寄りの風だったためプルームは太平洋へ流された。15日未明に冬型が崩れ、風向きが北東に変わるとプルームは原発から関東方面に流れ始めた。正午ごろに関東一帯を覆った後、夜にかけ南東風に乗って北関東に向かった。
この時、群馬、栃木両県の北部で雨が降ったため放射性物質が沈着しホットスポットができたと考えられるという。土壌汚染などが問題になっている放射性セシウムは粒径0.5~1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル。「重力では落ちず、雨が降らないとほとんど沈着しない」(大原利真・地域環境研究センター長)
21日にも北東風が吹きプルームが関東に向かった。同時に広域で雨が降ったため千葉県、神奈川県などの茶葉から高濃度のセシウムが検出されるなど影響が広がった可能性が高いとみている。今後、セシウムが地面に沈着後、地下水や河川を通してどのように動くかについて解析を進める。
気象庁の気象研究所は計算を簡単にするため、一定量の放射性ヨウ素が出続けていると仮定。12日夜~13日未明には南西風に運ばれて原発から宮城県沿岸部に向かい、太平洋に出た。15日未明からは北東風になったため関東に流れ、午前9時ごろには静岡県に達した。
16日以降は再び北西風が吹き太平洋に向かったが、20~22日には北東風に変わったため関東方面に流れ、静岡県、長野県にまで達した。つくば市で採取した大気中の放射性物質濃度の推移は計算結果とほぼ一致し、現実の拡散傾向をおおむね再現できたという。
一方、日本原子力研究開発機構は福島県内の放射性物質の詳細な拡散過程の分析を進めている。14日午後5時~17日午前0時の状況を再現した。15日午前に2号機格納容器の一部破損によって放出されたとみられるプルームは、北東風に乗って南西方向に流れた。
午後3時ごろ福島県中通り地方で雨があり、セシウムが地面に落ちてホットスポットを形成。また午後に発生したプルームは北西方向に流れ、雨と重なって飯舘村などにホットスポットができる原因になったと推定している。
地形の影響も明らかになった。永井晴康・環境動態研究グループリーダーによると原発の南西20~30キロメートルのホットスポットは、くぼんだ地形に風が流れ込んだ影響と考えると説明がつくという。11~14日午後5時の拡散の様子も再現する計画。1号機の格納容器のベント(排気)や水素爆発が福島県内の汚染にどう影響したか解析する。
シミュレーションで気象条件を完全に再現するのは難しい。時間当たりの放射性物質飛散量も正確には分からないため精度に限界はあるが、拡散の傾向は把握できる。広域の解析と、特定地域のより詳しい分析とを組み合わせれば、農畜産物への放射性物質の影響を知る有力な手掛かりにもなる。
(辻征弥)