太陽系の起源に迫れるか 小惑星「イトカワ」解明進む
分析作業は東京大学や岡山大学など8つのチームが参加して1月に始まった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)から配られた岩石質の微粒子約50個は、最大で0.1ミリメートルを超える。光学顕微鏡など様々な装置と手法を駆使しながら、鉱物や元素の組成などの解明に挑んでいる。
5月に千葉県の幕張メッセで開かれた「日本地球惑星科学連合大会」。はやぶさの特別セッションでは会場のほとんどが日本人にもかかわらず、大半の研究者が英語で講演するという国際学会さながらの風景となった。それまでの分析成果は3月の米テキサス州での学会でも報告されたが、国内では初めての機会だ。
科学連合大会の報告からは、太陽系が生まれたころの激しい活動がおぼろげながら分かってきた。小惑星などが飛び交い、派手にぶつかって砕け散る様子が目に浮かぶ。
北海道大学などは小惑星などの天体同士が衝突し「45億6800万年前とされる太陽系の誕生から630万年後以降にイトカワが形成された可能性が高い」と報告した。イトカワの微粒子に含まれるアルミニウムの同位体などを手掛かりに推定した。
またイトカワは長さが約540メートルの小惑星だが、本体となる大きな天体から分かれたとの見方が出ている。微粒子を薄く削り落として内部を調べたところ、セ氏700~900度まで温度が上昇し、ゆっくりと冷えた痕跡が見つかった。今のイトカワよりも大きな天体でなければ、こういった温度の変化は起きないという。
一方、微粒子表面には直径100~200ナノ(ナノは10億分の1)メートルのクレーター(くぼ地)状の構造が複数見つかった。別の小惑星などが熱などで細かく分解し、「超微粒子」となって高速でイトカワに衝突した痕とみられる。
人類が初めて目の当たりにする小惑星の微粒子。学会で報告される成果はすべて目新しい。
小惑星の微粒子になぜ世界が注目するかというと、地球を含む太陽系が約46億年前にどうであったかを解明できるかもしれないからだ。微粒子が入ったカプセルを開封した宇宙機構の藤村彰夫月・惑星探査プログラムグループ参与は「アポロ計画で持ち帰った月面の石は、それまでの仮説を覆した。同じことがイトカワで起きるかもしれない」と、期待に胸を膨らませている。
誕生直後の地球は超高温の溶岩や有毒ガスが覆っていた。その後どろどろの状態の地表が冷えて固まり、生物が誕生。今とは別物で、当時の太陽系を知るための面影はほぼない。
これに対し、小惑星は誕生時の状態から変わらないとみられている。その破片を詳しく調べれば太陽系誕生時のことが分かるかもしれない。「宇宙の化石」と呼ばれるゆえんだ。
研究者はあの手この手で微粒子の素顔に迫ろうとしている。大型放射光施設「SPring-8」などを使った3次元の内部解析からは、微粒子がカンラン石や斜長石などの鉱物で構成されていることなどを確かめた。
中性子を原子核に打ち込んで元素の種類を特定する分析法では、地球の表面にほとんど存在しないイリジウムを微量ながら検出し、微粒子がイトカワ起源であることを改めて証明した。希ガス同位体分析では微粒子が数百年、太陽風にさらされたとの推定を示した。
ただイトカワの誕生が「太陽系誕生から630万年後以降」では幅がありすぎる。宇宙機構の向井利典技術参与は「微粒子の量がもっと多く、サイズも大きければ詳細な年代特定も可能」と話す。これまでの分析では生命につながるアミノ酸などは見つかっていない。人類が待ち望む宇宙のナゾ解明へ世界の英知を結集しようと宇宙機構は来年中に本格的な分析を国際公募する。
(山本優)