スマートフォンより安くなったA4ノートが迫る「決断」
どうする国内勢 迎え撃つか、戦線撤退か
5月から始まったパソコン夏商戦に異変が起きている。外資系パソコンメーカーが、A4オールインワンノートで、かつてない"低価格攻勢"を仕掛けているのだ。驚きなのは、DVDスーパーマルチドライブを搭載した、れっきとしたA4オールインワンノートが、3万円台前半で入手できるようになったこと。遂に、A4ノートがスマートフォンより安く購入できる時代に突入した。ユーザーにとっては大歓迎だが、パソコンメーカーは「受難の時代」とも言うべき厳しい状況を迎えている。
調査会社BCNの最新データによると、2011年7月4日~7月10日のノートパソコン販売台数ランキングの3位に入っているのがレノボ・ジャパンの「G560e 105052J」。価格.comの最安値は3万1580円という衝撃的な価格が付いている(7月13日時点)。と言っても、決して悪かろう安かろうではない。この製品は、Windows 7 Home Premiumを搭載した15.6型のA4オールインワンノートで、CPUにはCeleron T3500を搭載し、HDDは320GBの容量を備え、光学ドライブはDVDスーパーマルチを搭載している。文書作成やWeb閲覧、メール送受信など、通常の活用法ならこの基本性能で十分だ。
日本エイサーの「eMachines eME732Z-F22B」も安い。こちらも、15.6型A4オールインワンで、価格.comの最安値は3万6075円。私も実際に試用してみたが、Windows 7は問題なく動作したし、思ったほどのストレスはなかった。CPUはPentium P6200と、かなり下のクラスになる。もちろん、Core i3よりも下位だが、2コア・2スレッドで、性能的にはCore 2 Duo P8400あたりと変わらないだろう。つまり、数年前のメーンマシンと同等のパフォーマンスだ。これで3万円台なら十分満足できる。
同じく日本エイサーの「Aspire AS5742-F52D/K」は、CPUにCore i5-480Mを搭載しながら価格.comの最安値は4万789円だ。Core i5を搭載しているのに、ほぼ4万円という価格はすごい。しかも、HDD容量も500GBとほどほどの余裕がある。この製品も前出のBCNランキングの第2位にランクされているが、このコストパフォーマンスなら人気が出るのもうなずける。
もちろん、安いなりの理由もある。単に生産コストの安いアジア製品でも、普通に作ったのでは3万円台というコストは実現しない。パーツ点数を極限まで減らし、できる限り塗装もしないように工夫している。1円でもコストを削る努力がなされているのは、ある意味でさすがだ。
どうする国内勢!迎え撃つか、戦線撤退か
A4オールインワンの価格がこれほど下がったのは、ユーザーを惹きつけるような商材が乏しいのが最大の理由だろう。OSやOfficeソフトのバージョンが切り替わる時期なら、メーカーももっと強気に出られるが、この夏はそんな目玉商材がない。地デジ全面移行に伴うテレパソ需要は、もっぱらデスクトップ一体型が吸収しており、テレビを搭載しない格安A4ノートパソコンに出番はない。価格一本で勝負するしかない状況だ。
もう1つ、価格サイクルの問題もあるかもしれない。これまで、国内のパソコンメーカーは春、夏、冬の3大シーズンに照準を合わせ、そこに新製品を投入してきた。投入直後は、高水準の価格を維持し、次第になだらかなカーブを描きながら下がっていく、というのが過去のパターンだった。
しかし、外資系のメーカーは、商戦期と新製品のタイミングを合わせることに、それほどこだわらない。前シーズンの古い製品を平気でぶつけてくるのが、彼らの流儀だ。今のユーザーは目が肥えているので、型落ちであっても性能的に問題がないとわかれば、迷わず海外製を買っていく。こうして外資系メーカーは着実に勢力を伸ばし、気がつくと「A4ノート売上ランキング・ベスト5の大半が海外勢」という構図ができてしまった(表1)。
こうした価格下落は、われわれユーザーには歓迎すべきことだが、国内のパソコンメーカーは苦しい状況に置かれている。ある国内メーカーの技術者は「今やパソコンよりもスマホを作るほうが利益が出る。これでは、パソコンを作る意味が問われかねない」と自嘲気味に話す。別のメーカーは「戸田さん(筆者)、今度ライバルメーカーの所に行ったら、これ以上引かないように言ってください。このままでは共倒れです」と悲鳴を上げる。彼らが、体力勝負の過酷な状況に置かれていることがうかがえる。
国内メーカーは、今後難しい舵取りを迫られる。これまで彼らは、A4型ノートパソコンを二つのカテゴリーに分けて販売してきた。1つは実勢価格が15万円前後の高級機モデル、もう1つは10万円を切る普及機モデルだ。今後、普及機の分野は、外資系の安値攻勢と真正面からぶつかることになる。採算悪化を承知のうえで、この分野でも彼らと互角に渡り合うのか。それとも、この戦線から撤退し、高級機路線1本に絞って勝負するのか。判断を迫られる時期が近づいている。
(ビジネス書作家 戸田覚)