「成長性のワナ」きしむ株式市場 膨らむ不安、業績とズレ
世界の株式市場の雲行きが怪しい。企業の利益成長期待を示すPER(株価収益率)は30年ぶりの低水準となり、長期投資の主役だった年金は保有株の圧縮を急いでいる。市場のきしみは株式の魅力が衰えている証しなのか、行き過ぎた悲観論の産物なのか――。
株には投資したくない。米バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが世界の機関投資家を対象にした9月の調査で、こんな結果が出た。株式選好を示す指数が2009年5月以来のマイナスに転じたのだ。
■新興国でも停滞
欧州債務危機を受け、20日の東京市場で日経平均株価の下げ幅は一時150円を超えた。「リスクオフ」(リスクを取らない)が流行語となり、投資指標は世界的に異変を告げている。
最も基本的なものさしであるPER。株価が1株利益の何倍かを示し、先進国では「平均15~20倍が適正」とされてきた。PER20倍は20年にわたって企業が利益成長を続けるという期待を表すが、その低落が著しい。
平均PERはドイツが9倍、英仏が10倍、米国が13倍。2000年に一時50倍と突出していた日本も13倍台になった。一斉にここまで下がるのは、第2次オイルショックでインフレ圧力が高まった1981年以来のことだ。マイクロソフト、インテル、日立製作所、コマツ……。名だたるグローバル企業がPER10倍前後に甘んじている。
成長期待が高いはずの新興国市場も例外ではない。ブラジルのPERは8倍台、中国(上海市場)も10倍台にとどまる。「いわば株式市場のニューノーマル(新しい常識)。この状態は3~5年続くのではないか」。米コンサルティング会社タワーズワトソンのカール・ヘス氏は停滞の長期化を警戒する。
株価が1株当たり自己資本の何倍かを示す株価純資産倍率(PBR)も急低下した。欧米や韓国の平均PBRは「解散価値」と呼ばれる下値メドの1倍に近づき、日本では上場企業の7割が1倍に満たない。資本が損なわれる事態を想定した異常値だ。
■三重苦で萎縮
08年のリーマン・ショックから3年。今、世界が直面しているのは欧州の債務危機、米国のデフレ懸念、新興国のインフレ懸念という三重苦だ。「世界がバブル崩壊後の日本のような苦境を迎えるという警戒感」(仏経済学者ジャック・アタリ氏)が、投資家を萎縮させている。
企業が成長投資を止めたわけではない。今年、世界のM&A(合併・買収)は2兆ドルを超え、3年ぶりの高水準。「リスクオン」(リスクを取る)の経営風土は健在だ。
東日本大震災や円高に見舞われた日本企業も、新興国需要の開拓などで150社超が12年3月期に経常最高益を更新する見通しだ。「今、来期とも生産・販売台数は最高になりそう」(カルロス・ゴーン日産自動車社長)といった声もある。
だが、企業と市場の意識のズレは埋まらない。アナリストの業績予想を集計したQUICKコンセンサスによると、世界景気に左右される海運・空運から内需の小売りまで、市場予想が企業見通しを下回る例が目立つ。
国内総生産(GDP)の世界合計額は今年、約68兆ドルとなる見通し。世界の株式時価総額は約50兆ドルで、市場規模は実体経済の規模に追いつかない。不安が渦巻く株式市場は成長力を織り込めず、それが実体経済にも悪影響を及ぼす「成長性のワナ」に陥りつつあるようにみえる。