語り部は「無念」伝える
震災取材ブログ
壊滅的被害を受けた宮城県南三陸町で、毎月最後の日曜日に地元や全国の商店主らが行う福興市。その一角で、震災前に観光協会で地域ガイドをしていた町民約10人による震災体験の「語り部教室」が開かれる。
生活は徐々に落ち着いてきたとはいえ、まだ町にはがれきが残り、心の傷も深いはず。そんな時になぜ「語り部」なのか。代表の鴻巣修治さん(66)はこう考えているという。「この町で起きたことが忘れ去られた日のことを考えると、無念さで気が遠くなるんです。苦しみを自分の中にじっとこらえたまま口を開かず、今はまだ体験を話す気になれない人も多い。それでも二度と同じことが起きないよう、伝えていかなければいけない」
「伝える」ことへの使命感が、語り部を引き受けた動機だった。体験を話した高橋礼子さん(63)は「話すことで自分の心を整理でき、気持ちを分かち合える。私よりもっとつらい体験をした知り合いにも話してみればと誘っています」と静かにほほ笑んだ。
この日の教室の最後、鴻巣さんは訴えた。「私たちには南三陸町の死者、行方不明者の無念の声が聞こえる。生き残った仲間のなかにも『妻や親、子供を救えなかった』と自分を責める人が大勢いる。そういう人々のことを決して忘れないでほしい」
悲劇を「伝えよう」との思いは、きっと後世に届く。傷ついた心は、寄り添うことで癒やすことができるはずだ。(増田有莉)