アフガン、治安改善に疑問の声 米ヘリ墜落の余波広がる
【ワシントン=中山真】アフガニスタンで6日に起きた米軍ヘリコプター墜落事故の波紋が米国内で広がってきた。死亡米兵の大半は海軍特殊部隊「シールズ」所属の精鋭で、2001年の米同時テロ後の対テロ戦で中心的存在だったためだ。墜落原因が武装勢力の攻撃によるとの見方が強く、現地の治安改善が進んでいないことも改めて浮き彫りになった格好。米軍の撤収計画にも影響を与える可能性もある。
9日午後、デラウェア州のドーバー空軍基地にオバマ大統領やパネッタ国防長官らが出迎える中、死亡兵士のひつぎがひっそりと到着した。死亡した兵士の遺体出迎えにオバマ氏が姿を見せるのは就任後2度目。ただメディアに一切公開されず、通常は公表する遺体の身元も明かさなかった。
米兵が一度に30人死亡するのは01年の米同時テロ以降のアフガンでの戦闘では最大規模。現地の国際治安支援部隊(ISAF)は10日、墜落ヘリがイスラム原理主義の反政府武装勢力タリバンから携帯式ロケット砲で攻撃を受けていたとし、同攻撃に関与した武装勢力はISAFの空爆で死亡したと発表。ただ、同攻撃だけが墜落の原因とは結論づけられないと説明した。
さらに衝撃を広げるのは、ヘリに乗っていた22人のシールズ隊員のほとんどが「チーム6」と呼ばれる対テロ特殊作戦担当だったことだ。5月に国際テロ組織アルカイダ指導者ビンラディン射殺作戦に携わった隊員もおり、深夜などの秘密作戦を得意としていた。「ベスト・オブ・ザ・ベスト」とされる精鋭を失った米軍内の衝撃は大きい。
事態を重く見た米中央軍司令部は9日、調査チームの設置を発表。攻撃を受ける危険が高い遠隔地になぜ特殊部隊を派遣したか、高精度の兵器を持たないとされるタリバンがなぜヘリを狙い撃ちできたか、などが焦点となる見通しだ。
オバマ政権は約10万人に上るアフガン駐留米軍を7月から段階的に撤収し、来夏までに計3万3千人を引きあげる計画。ヘリ墜落現場はタリバンの巣窟とされる対パキスタン国境から離れた地域で、既に米軍が撤収し、治安権限をアフガン軍に移譲した地域とされる。
米軍撤収はビンラディンの死亡が大きな判断要素となっていたが、特殊部隊が攻撃を受けたというのが事実なら、タリバンがなお対決姿勢を維持していることを意味する。「タリバン側が攻撃能力を高め勢力を拡大している可能性もある」(ガンジンガー元国防次官補代理)との分析も聞かれ、米軍の撤収プロセスへの懸念も強まっている。