2枚のタッチ液晶だけで操作、エイサーのキーボードレス・ノート機を試す
フリーライター 竹内 亮介
タッチ操作を取り入れたスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末の普及により、液晶ディスプレーをタッチパネルに変更した「WindowsOS」搭載のパソコンも徐々に増えてきた。ただ、WindowsOSはタッチのみで操作するのが難しいこともあり、アップルの「iOS」や米グーグルの「Android(アンドロイド)」搭載のタブレット端末のような使いやすさを提供できていないのも事実だ。
日本エイサーが5月に発売した「ICONIA(アイコニア)-F54E」は、一見すると普通のノートパソコンだが、キーボードをなくし、2つの液晶ディスプレーを備えたユニークな製品だ。普通のノートパソコンの画面に相当する部分にタッチ操作できる14型ワイド液晶があるほか、キーボード部分に相当する箇所にもタッチ操作の14型ワイド液晶を搭載している。
この「デュアル液晶」ともいえる異色のノートパソコンの使い勝手はどうか、WindowsOSのタッチ操作での使いにくさにどう対応しているのかをチェックしてみた。
■両手を置くと液晶に仮想キーボードを表示
アイコニア-F54Eは、タッチ液晶を搭載する製品シリーズ「アイコニア」に属する。筐体の大きさや重さ、外観はA4判の個人用ノートパソコンと同等で、上の液晶ディスプレー部分を開いたり閉じたりする「クラムシェルスタイル」を採用している。
上の液晶部分を閉じるとノートパソコンそのものだが、開いてみるとキーボード部分の場所にツルッとして光沢感のある液晶ディスプレーがあるだけだ。電源など操作に必要なボタン類は側面側に置いた。「タッチのみで操作する」ということを強く意識させるためのデザイン的な工夫だろう。外観だけでもインパクトは非常に強い。
電源を入れて起動すると、上下の液晶ディスプレーにデスクトップ画面を表示する。上の液晶は通常のノートパソコンと同じく各種情報やウィンドウを表示するために使う。下の液晶では、そうした通常の表示機能に加え、エイサー独自の各種タッチ操作機能を利用できる。14型ワイドという大型のタッチ液晶だからこそできる仕掛けだ。
まず両手の指を下の液晶に置くと、仮想キーボードを自動的に表示する。タッチパッドやワンタッチキーなども備えており、文章の入力やソフトウエアの操作が可能。通常のノートパソコンに一番近いスタイルだ。タッチパッドを表示しない設定にしてキーボードを打ちやすい位置に移動する機能もある。
ただ、通常のキーボードのつもりで素早く打つと、わずかながら入力の取りこぼしが発生した。 また、タッチ操作なので当たり前だが、キートップ同士の境目が指先の感覚で認識できないので打ち間違いも発生しやすい。キー入力を認識する小さな音を確かめながら打っていくことで、打ち間違いは避けられるだろう。
パームレストとして設定している部分に手のひらを置いた状態でも、キー入力は正しく認識できた。また、単に指をキーの上に置いた状態では入力を認識せず、「考え中の指休め」も可能だった。通常のキーボードでは当たり前だが、タッチ操作の仮想キーボードだとこうした細かい使い勝手にまで注意して設計している製品は少ないため、ちょっと驚いた。
仮想キーボードの左上のキーボードのアイコンをタッチすると、手書き入力モードになる。中央の黄色い帯のところに文字を書き込んでいくと、自動で認識して文字にする。変換は0.5秒程度で素早い。変換モードに日本語、英語、数字の区別はない。変換精度は高いが、手書きなので適度な修正は必要。メモ書き程度ならこれで入力するのもよいだろう。認識した文字の上に横線を引っ張ると「その文字の削除」、文字と文字の間に縦線を引くと「入力した文字の分割」などといったジェスチャーもわかりやすい。
片手を置くと表示する「エイサーリング」で便利にタッチ操作
片方の手だけを下画面に置くと、登録されているソフトウエアのサムネイルを円環状に表示する独自の「エイサーリング」が起動する。このサムネイルをグルグルと指で動かすと、登録済みの7つのソフトウエアを選択でき、タッチするとそのソフトが起動する。
特に便利と感じたのは、14型ワイド液晶の2画面分をフルに使ってウェブサイトを閲覧する「タッチブラウザ」と各種連携機能だ。どちらかの画面上で指を滑らせると、上下の画面で連携して画面がスクロールしていき、広大な領域の情報を一目で確認できる。複数の画面を切り替えて表示できるタブ切り替えにも対応し、機能は「インターネットエクスプローラー」と同じと考えてよい。
下画面にある「切り取りマーク」を押すと、現在表示中のウェブサイトの一部分を保存する「ウェブクリップ」機能が起動する。気になった情報があったら指先を滑らせて矩形エリアで選択し、同じくエイサーリングで起動できる「マイジャーナル」に保存するというタッチブラウザとの連携機能だ。ボタンが大きめに作られており、タッチでも操作しやすい。
ウィンドウの移動や最小化、最大化、表示領域の変更などをタッチ操作で簡単に行える「ウィンドウズマネージャ」も便利な機能だ。「ウィンドウズ7」のタッチ操作の難しさは、操作を認識する領域が狭く、タッチでは細かい作業が行えないことに起因するが、これをウィンドウズマネージャではうまく解消している。
表示する液晶の変更、上下の画面をフルに使った表示、ウィンドウの大きさの変更などをタッチ操作で簡単に行えるようにしており、ウィンドウズ7の操作感が大きく変わった。現状ではエイサーリングからしか起動できないが、何らかの操作ですぐに利用できるようにすると、もっと使いやすくなるのではないかと感じた。
エイサーリングの中央部分は、ジェスチャー操作のためのエリアだ。あらかじめ登録しておいた一筆書きのジェスチャーで、自分が登録したソフトウエアを起動できる。大まかな操作のみで自由にソフトウエアを呼び出せるのはなかなか便利。このジェスチャー機能をうまく使いこなせば、スタートメニューやタスクバーの小さなアイコンをうまくタッチできずにイライラすることがないわけだ。
タッチ操作の良さを引き出した独自ソフト、液晶の視野角が残念
「タッチ操作の使用感が悪いウィンドウズだからしょうがない」とあきらめず、あらゆる方向からタッチでの操作感を高めている優れたパソコンだ。しかもそれぞれの操作は煩雑ではなく、呼び出し方法も直感的でわかりやすい。さまざまな状況で適切な操作画面を呼び出せるという大画面タッチパネルの良さを十分に引き出しており、パソコンの操作性にもまだまだ改善の余地があったのだ、ということを改めて感じさせてくれる。
ただ、残念なのは下の液晶画面の視野角が狭いこと。通常の状態では画面全体がやや暗くなり、色味もよくない。文字も読みにくくなることがある。クラムシェルスタイルでは上の画面の角度は変えられるが、下の画面ではそうした調整は不可能。操作感の良さが際立つだけに、若干のちぐはぐさを感じずにはいられないのだ。次のモデルでは、視野角の広い液晶の搭載に期待したい。
1970年栃木県生まれ、茨城大学卒。毎日コミュニケーションズ、日経ホーム出版社、日経BP社などを経てフリーランスライターとして独立。モバイルノートパソコン、情報機器、デジタル家電を中心にIT製品・サービスを幅広く取材し、専門誌などに執筆している。