物価高の賃金への波及警戒 欧州中銀、7月利上げ示唆
【フランクフルト=菅野幹雄】欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は9日の定例理事会後の記者会見で、物価動向について「強く警戒する」と述べ、7月の理事会での利上げを示唆した。ユーロ圏の消費者物価上昇率が想定を上回る見通しとなっているためだ。欧州中銀は4月に続く利上げで、物価高の裾野が広がって上昇に勢いがつくのを防ぐ構えだ。
トリシェ総裁は理事会後の記者会見で、最近の経済指標について、物価上昇圧力が続き経済活動が堅調であることを示していると分析。物価に上ぶれリスクがあると指摘し、「強い警戒」が必要との見方を示した。過去の例では「強い警戒」という言葉が入った場合、その翌月に利上げを必ず決めている。
ユーロ圏の消費者物価は5月の速報値で前年同月比2.7%上昇した。6カ月連続で欧州中銀が物価安定の定義としている「2%未満だがその近辺」とする水準を超えている。物価上昇が賃金や人件費の上げに跳ね返る「二次的波及」を欧州中銀は強く警戒している。
物価高圧力の原因は主に2つ。まず、ドイツやフランスなど中核国の景気が好調で、ユーロ圏全体で予想を上回る経済成長が続いている。第2に新興国経済の成長でエネルギー消費が加速するとの見方から、資源価格が依然として高水準にある。一時の高騰は収まったが、石油輸出国機構(OPEC)内の意見対立を受けて8日に上昇するなど原油相場は不安定な動きになっている。
欧州中銀は記者会見で、四半期ごとに出している6月時点の物価・経済に関する内部予測の骨子も公表する。前回3月の公表時点ではユーロ圏の物価上昇率を11年2.3%、12年1.7%と予測していたが、今回の見通しでは11年を2.6%に上方修正した。
欧州中銀は足元の物価上昇率の動きよりも、人々が先々の物価上昇をどう見通しているかを示す中期的な「インフレ期待」を重視する。12年にかけた物価予測を上方修正することで利上げの根拠とする可能性がある。
一方、ユーロ圏内ではドイツなど経済規模の大きな強い国が好調な一方で、債務危機に直面するギリシャやポルトガルといった中小国の経済が一段と厳しくなる構図が鮮明だ。日米に先立って利上げ局面に入った欧州中銀の「独走」が、高債務国の苦境を深めかねないとの見方もある。