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黒船グルーポン追うリクルートの勝算

反転攻勢の裏に「愚直な策」

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やはり同業界に身を置く人間の嗅覚は鋭かった。昨年の暮れ、リクルートが運営するクーポン共同購入サイト「ポンパレ」の前澤隆一郎編集長は、まるで「おせち騒動」を予期していたかのごとく、こう話していた。

「グルーポンのクーポンの質について、けっこう危ないのでは、そこがアキレス腱(けん)になる可能性があるんじゃないかと見ている。景品表示法も含めて、いつ刺されてもおかしくないなかで、サービスをなされている印象。勢いで伸びている業界だけに、何かが起きたら騒ぎになるかもしれない」――。

その危惧が現実のものとなった年明けのおせち騒動。クーポンを購入する消費者側、提供する店舗側ともに不信感がまん延する結果となり、急成長を遂げてきたクーポン業界は踊り場にさしかかった(詳しくは「クーポンサイト、隆盛の陰にひそむ危うさ」を参照)。そのなかで、首位グルーポンの後塵(こうじん)を拝していた2位のポンパレが反転攻勢に出ている。

1月中旬から手数料の有料化に踏み切ったポンパレ

1月中旬、リクルートは準備が整ったとして、ポンパレ事業の有料化に踏み切った。じつは2010年7月にサービスを開始して以降、リクルートはポンパレを「テストマーケティング」と位置づけ、掲載する店舗からの手数料を無料としていた。消費者から得たクーポンの代金は、その全額を店舗側に還元、リクルートの実入りはゼロだった。

新たに設定した手数料率は、原則15%。業界最大手、グルーポン・ジャパン(東京・渋谷)が基本手数料率に据えている50%からすると、かなり低い。ポンパレの事業責任を負うポンパレ事業推進室の北村吉弘室長(事業部長に相当)によると「クレジットカードの決済手数料や、サイトの維持運営費・人件費などの固定費をまかなえるくらいの料率」という。

今後は、クーポンを掲載する店舗の業界ごとに適切な料率を探り、今夏をめどにリクルートに利益が残る新たな料率を設定する計画だ。北村室長は、「たとえば飲食業はだいたい3、4割が原価と固定費なので、半額にしてさらに手数料を50%取るとほとんどが赤字になる。手数料が20%から30%が、店舗の損益分岐なのではないか」とする。

同時に組織体制も強化した。クーポン付きグルメ情報誌・サイト「Hot Pepper(ホットペッパー)」など、全国30カ所の拠点に散らばる既存媒体の営業担当約1500人をポンパレ向けの新たな商材の発掘にフル活用するほか、衣料品のクリーニング店など既存媒体で扱っていない業種をカバーするポンパレ専任の営業部隊を70人ほどに倍増させ、全国7カ所の主要拠点に配置した。

攻勢は数字にも現れている。クーポン情報サイト「クーポンジェイピー」を運営するシープジェイピー(栃木県大田原市)によると、11年1月にポンパレが提供したクーポンの掲載数は前月比15%増の1620件と伸び、同8%増で1529件のグルーポンを初めて超えた。

月間の推定販売総額では、ポンパレが4億7664万円なのに対し、グルーポンの販売総額は約2倍の9億8385万円と"ダブルスコア"の差は埋まらない。だが、数字を詳細に追うと、違ったトレンドが見えてくる。

週次販売総額の開きを1.4倍に縮め、射程圏内に

12月からの週次の販売総額を割り出し、グラフにすると、クーポン掲載数が回復した正月休み明けの1月初旬以降、グルーポンが横ばいなのに対し、ポンパレは右肩上がりで売り上げを伸ばしていることが分かる。11年1月30日からの1週間、ポンパレが販売したクーポンの推定金額は1億5393万円で、グルーポンは同2億1567万円。2月1日には、日次の販売額で初めてポンパレがグルーポンを抜いた。この期間だけを見ると、その差は1.4倍。射程圏内に収めたと言える。

破竹の勢いで進軍する「黒船」に、ようやく反撃ののろしを上げるところまできたリクルート。ただ、潮目が変わった要因に、おせち騒動があることは間違いない。グルーポンがつまずいただけ、という見方もできる。棚ぼたか、地力か。取材を進めると、反転攻勢の裏には周到な準備と独自性にこだわった策が隠されていた。

「ポンパレはグルーポンのコピーなのか別物なのか。何が違うのか」。今年1月末、ポンパレ事業を仕切る北村室長に詰め寄ると、北村室長はこう返した。

「装置としては一緒だから、コピーのように見えるかもしれない。ただ、動かし方がぜんぜん違うと思っている。中長期的にちゃんと業界を活性化するという視点に立って、何をやるべきで何をやってはいけないか、さんざん議論を尽くした。その結果、やらないと決めていることがある。それが数あるクーポンビジネスのなかでもポンパレの特徴を決めている、と思っています」

リクルートがクーポン共同購入サイトへの参入を検討し始めたのは、10年初めのこと。米グルーポンが火をつけた「フラッシュマーケティング」という新たなビジネスがいずれ日本に上陸するのは目に見えていた。リクルートにはすでに、ホットペッパーというクーポンビジネスがある。ヘアサロン、ネイル、エステなど女性向けサービスに特化した「ホットペッパービューティー」という姉妹サイトもある。当然、対応を迫られた。

リクルートには、ホットペッパーやホットペッパービューティーのほかにも、クーポンになり得る旅行商品を扱う「じゃらん」、教育・学習関連情報の「ケイコとマナブ」といった媒体がある。それらを横断的につなげたビジネスユニットのもとにポンパレの開発チームが置かれ、まずは徹底的に米グルーポンのビジネスモデルを研究した。そのときにチームが着目したのは、これまで累計で何ドル割り引いたかを示す「Total dollars saved」という表示だった。

不出の「ポンパレ憲法」、かかわる全員が携帯

どうして売れた総額ではなく、割り引いた総額を出す必要があるのか。思案の末、北村室長はこう思い至った。「米国でクーポンサイトが発達したのは、まずリーマンショック以降の消費の冷え込みがあったからではないか。一般大衆の消費カルチャーが『お得に賢く暮らした方がクール』というように変わった。その背景があって、割引総額を強調する必要があったのかなと」

これだけお得。その強調は、消費者にとって魅力に映り、掲載店舗にとっては一挙に大量の新規顧客を獲得できる魔法の呪文にもなる。だが半面、割引競争をあおり、デフレを加速させる魔の呪文となってしまう危険もはらむ。割引競争にはまった業界は自滅しかねない。当時、開発チームの面々は、こんな話をしていたという。

「下手をすると焼き畑ビジネスになりかねない」「行き過ぎるとフラッシュじゃなくて、"クラッシュ"マーケティングになっちゃうよ」「薬の使い方を考えなければ、毒にもなるよね」――。フラッシュマーケティングの「危うさ」を認識したポンパレの開発チームがまず確認したのは、「断る勇気を持とう」ということだった。北村室長は、こう説明する。

「たとえお店が『500枚出したい』と言ったとしても、明らかに店舗がこなせない枚数だったら、ちゃんと断って『200枚で我慢しましょう』と言える勇気を持とうぜ、と確認した。当然、僕らとしては500枚まるまるもらえたらうれしいけれど、通常営業を圧迫してまでクーポンを売ったら、クーポンサイトだけが丸もうけする結果になってしまう。それだけはやりたくないねという話をずっとしていた」

「断る勇気」は店舗のためでもあり、消費者のためでもある。購入者が殺到した結果、商品が届かない、あるいは予約が取れないという羽目になれば、悲しむのは消費者だ。激しい議論の末、開発チームはこの文言にたどり着き、フラッシュマーケティングの市場に参入した。

「そのチケットはあなたの親しい人におすすめできますか」――。

北村室長が「すべてのベースとなる思想」と言うこの文言は、社内で「ポンパレ憲法」と呼ばれる小さな冊子に書かれ、ポンパレの企画や営業にかかわる全員に配布された。そして、このポンパレ憲法を念頭にリクルートは約半年のあいだ手数料を無料とし、事例を重ねてきた。

既存媒体にはまらない「新領域」の業種に可能性

その結果分かったのは、やりようによっては消費者、店舗、そしてクーポンサイトが「3者3得」の関係を築くことができる、ということだという。なかでも、リクルートが注目しているのが、社内で「新領域」と呼んでいる業種のクーポンだ。

クーポンサイトと言えば、「飲食」というイメージが強い。だが、ポンパレに掲載されているクーポン全体のなかで、飲食関連は35%に過ぎない。25%が旅行、美容・健康、学習・教育関連。もっとも多くを占める残りの40%は、リクルートにとっては新領域の商材なのだという。つまり、ホットペッパー、ホットペッパービューティー、じゃらん、ケイコとマナブの既存4媒体に当てはまらない商材だ。

「今まで広告を出したくても、出し場に困っていた業種や領域では、完全に可能性を感じている。一瞬にして多くの人に知らしめることができ、しかも広告費を前金で用意する必要がないフラッシュマーケティングは、そうした業種にとって最高の術。3者でメリットを享受できる」

「たとえば家事代行の業種は、僕らが持っている媒体ではどこにも掲載できなかった。事業者は広告先をすごく探していて、『タクシー内のチラシ広告しか出したことがありませんでした』という世界。いざフラッシュマーケティングをやってみると、完売。世の中にニーズはあった」

前澤編集長がこう話すように、10年10月に売り出された「【23区限定】家事代行2時間サービスでキッチン、トイレ、お部屋のお掃除や洗濯・料理を。57%OFF2980円で!」というクーポンは、24時間を待たずに上限の100枚を売り切った。好評だったため、翌月に同じクーポンを150枚の上限で再掲載したところ、また完売した。

これを見た都内の同業他社や名古屋地域の業者がポンパレに掲載するなど、家事代行のクーポンは定番化しつつある。開拓が成功した例はこれにとどまらない。

芸人の妻が始めた小さなショップの商品がヒット

ポンパレは、商品やサービスの存在自体が知られていない珍しい商材の開拓にも力を入れている。10年11月に登場したのは、子どもが書いた絵をプロのデザイナーが背景や色を足してアレンジし、額縁に入った「アート作品」に変えてくれるというクーポン。やや"マニアック"なサービスで、半額の割り引きでも7500円と比較的高額だが、上限近い41枚が購入された。

翌12月には、おそらく国内で唯一無二の専門店によるクーポンが、上限の200枚に達した。掲載したのは、子ども向けの「手ぬぐい服」だけを専門に扱う「Kerorin Baby」。オーナーの宿輪友美さんが芸人の夫(元「Rまにあ」のしゅく)を支えようと2年前に個人事業として始めた、小さなネット通販のショップだ。

手ぬぐい服は宿輪オーナーにとって小さな頃から身近な存在だった。出身地の静岡県焼津市では「1人3枚は持っているほどポピュラーな商品」。もともとは昭和初期に焼津の魚屋が築地の魚河岸でもらってきた手ぬぐいを服に仕立てたのが始まりで、肌触りや吸収性がよく、長年焼津市民に親しまれてきたという。

「魚河岸のデザインはちょっと好みが分かれるけれど、子ども向けのかわいいデザインだったら贈答品として絶対に喜ばれる。手ぬぐい服のすばらしさを何とか全国に伝えたい」。そんな思いを抱き、ビジネスを始めた宿輪オーナーは、ポンパレ側からの営業を受けて快諾した。

手ぬぐい服1着の価格は59%OFFの1980円。「採算がとれるギリギリのライン」だったが、宿輪オーナーは「やってよかった」と話す。「サイトのアクセスは2倍以上になり、通常の売り上げも少し上向いた。クーポン購入者のほとんどは贈答用で、先方に喜ばれたとお礼のメールをいただいたり、受け取った方が今度は自分の知り合いのために定価で買ってくれたりした。ブランド価値を下げるのであまり安売りはしたくないが、年に2、3回はやっていきたい」

15万円の「ビールかけクーポン」が完売に

こうした新領域での商材を発掘するために、リクルートは新たな営業部隊を設置し、開拓を進めてきた。ほかの領域では、飲食はホットペッパー、旅行はじゃらんといった具合に、対応する既存媒体の営業担当がポンパレも兼ね、対外的にも「営業」と名乗っている。対して、新領域の営業部隊は「プランナー」と呼ばれ、名刺にもそう刷られている。

「広告を取ってくる、という感じではない。いい商品を自分たちで発掘して、納得していただけるような形に仕立てる企画屋」。北村室長がそう説明するように、新領域のプランナーは企画力勝負の"おもしろクーポン"も手がけつつある。その象徴が10年11月に登場した、プロ野球の優勝でおなじみの「ビールかけ」クーポンだ。

「プロ野球選手気分でビールかけ大会!通常31万円(50名分)のプランが51%OFFの15万円で体験できる。大会後はスパでほ~っこり」。掲載したのは、神戸市の三宮駅にほど近い天然温泉につかれる大型スパ施設「神戸サウナ&スパ」。女性や若年層へも浸透させるためにクーポンをやってみたいと、神戸サウナ側からポンパレに相談を持ちかけたことがきっかけだった。

さっそく大阪支社から出向いた新領域のプランナーは、話の合間の雑談でたまたまビールかけの存在を知る。神戸サウナでは、阪神タイガースが優勝に絡んだときなどに駐車場を開放し、不定期でビールかけイベントを開催していた。ずぶ濡れになってもすぐにスパで洗い流せるとあって好評を得ており、10年6月に「ビールかけ大会プラン」を商品化していた。

ただ、そのためだけに広告宣伝などのコストをかけるわけにはいかず、告知はホームページと館内の一部くらい。固定費が特段かからないため、普段は放置された状態で、利用があったのは半年でわずか1回だった。「広く周知し、利用しやすいように仕立てれば、数枚は売れる」。そう踏んだプランナーは「基本料金に50人分の発泡酒や入浴料、Tシャツ・短パン・タオルの貸し出し料などをセットにして、半額のクーポンにしてみませんか」と提案した。

「3者3得」の関係を構築しやすい

結果は、半額でも15万円という高額商品にもかかわらず、上限の3枚を売り切った。2枚は会社の宴会向けだが、1枚は個人で、購入者はツイッターで参加者を募っていたという。2月下旬に、1枚目の利用が計画されている。

ほぼ同時期に掲載した女性専用フロアのクーポンも300枚の上限近い売れ行きだった。担当者は「神戸サウナの存在は知っているけれど、レディースフロアやフィットネスフロアを備えていることは知らなかったというお客さんが多かった。そういう方々への、いいきっかけづくりになったと思っている」と話す。

新領域の掲載店舗はニッチな業種が多いため、競争はさほど激しくなく、安売り競争に陥るリスクも低い。誰もが日常的に購入するような商材は少ないため、安売りを狙う「バーゲンハンター」が集中する可能性も低く、リピーターになる確率は高まる。消費者にとっては普段目にしないモノやサービスを発見することができ、お得に試すチャンスにもなる。そして、リクルートも既存媒体で扱えなかった新規市場を開拓できる。

確かに新領域の商材は、競争が激しい飲食やエステなどにくらべて、3者3得の関係を構築しやすいと言える。だからリクルートはこの1月、プランナーの人数を倍増させ、さらなる強化を図った。ただし、新領域の商材だけでポンパレを構成するわけにはいかない。ポンパレだけが新領域の商材を独占できるわけでもない。競合他社は、すぐさまキャッチアップしてくる。

実際、ポンパレの掲載以降、ほかの競合サイトでも家事代行やクリーニングのクーポンが増えた。手ぬぐい服の宿輪オーナーや神戸サウナのもとにも、ポンパレの掲載以降、「グルーポンも含めて営業の電話がよくかかってくるようになった」という。であれば、リクルートは何を強みとしていくのか。北村室長は、「組織力が武器になる」と強調する。

既存媒体を抱える「組織力」が後支えに

「既存媒体を通じて、もともと消費者とクライアント、両方の接点を持っているところがポンパレの強み。組織をどう活用するか、そこに完全にかかっている」。組織の活用とは、既存の各媒体からポンパレへの導線を引いたり、メールマガジンを活用したりすることはもちろん、全国に散らばる既存媒体の営業担当約1500人がクーポンに固執せずに動ける体制を指す。

「クライアントの固定費をいかに無駄にせず、全体の稼働率を上げるか。集客コストを見ながら、稼働率の平準化を図る補完ツールとしてポンパレを提案させていただいている。ホットペッパーのクライアントでポンパレ以外のクーポンサイトを使っているところは、2割もない」

前澤編集長がそう話すように、無理にポンパレを勧めず、必要なときに提案するというスタンスが、既存媒体とポンパレ、両者のシナジーに結びついているという。たとえば、都心部の飲食店を受け持つホットペッパーの営業担当が、付き合いのある居酒屋に出向いたとき、オーナーが「平日はいいんだけど、土日が埋まらないんだよね」とこぼしたという。営業担当は「土日だけのためにホットペッパーを使うのは非効率」とポンパレの利用を提案し、実現した。

じゃらんの領域で「世界で一番高いクーポン」を企画

この延長線上で力を入れているのが、新領域のプランナーが次々と実現させているような、ニッチな商材の発掘だ。「既存媒体がカバーしている領域でも、これまでに扱ったことのない、驚きや発見がある商品やサービスはたくさんある」。前澤編集長が「たぶん、世界で一番高い」と例に挙げるのが、10年12月にお目見えした温泉旅館のクーポンだ。

「一生に一度の贅沢を大切な人と心ゆくまで堪能!露天付離れ宿の宿泊にヴィンテージワインが付いた極上プラン」と銘打たれたクーポンの値段は、50%OFFでも28万2000円。全5部屋のすべてが離れで露天風呂付きという、栃木県の温泉旅館「日光はなぶさ」が掲載した。といっても、通常料金は1泊2食付きで1人3万円からと、驚くほどの値段ではない。

クーポンの対象となったのは、09年5月からひっそりと扱っていた、高級ワイン「ペトリュス」が1本付くプランである。ワインはオーナーの所蔵品で、入手困難の代物。市価は、25万円以上もする。一般の人には縁のないプランで、じゃらんに載せても意味がない。言い換えれば、既存媒体で扱えなかった商材。ところが、このプランを知ったじゃらんの営業担当が半額のクーポンに仕立てたところ、上限の3枚が好事家に売れた。前澤編集長は言う。

「フラッシュマーケティングは低価格のイメージがすごく強いけれど、決してそういうわけでもなく、高額商品も売れることがわかってきた。もともと、じゃらんでカギ付き露天風呂特集を提案したり、ホットペッパーで女子会プランを提案したりと、ひねって顧客ニーズを発掘する手法はいろんな領域でやってきている。それがすごくポンパレにも生きている」

組織力の発揮は、クーポンの発掘にとどまらない。クーポンサイトのビジネスモデルの基本的な構図は、どこも同じ。クーポンサイトが抱えるさまざまな「危うさ」は、すなわちポンパレの危うさとも言える。このリスク回避にも組織力を生かそうとしている。

厳格な審査で「曖昧な資料は、ぜんぶ突っ返す」

「自分たちで自分たちの首を絞めていると思うほど、本当にルールでがんじがらめ」。前澤編集長がこう自嘲気味に話すほど、ポンパレは審査体制にこだわっているという。

まず、掲載してもよい企業か否かを判断する「掲載審査」を、全社共通で与信管理をしている部門が実施する。すでに採用支援などで取引がある場合が多く、その実績などを照合。さらに、過去販売でトラブルを起こしていないか、消費者庁のトラブル事案に上がっていないか、念を入れて調査するという。

これをクリアすると、今度は表示している価格が妥当か、二重価格違反になっていないかを判断する「価格審査」に入る。店舗には、通常価格として認められる要件を満たしていることを証明する「実績確認書」の提出を必ず求めている。この内容を、ポンパレのために新設した10人ほどの審査チームが確認する。通常価格の根拠となる証拠がなければ、審査は通らない。

「あいまいな資料は、ぜんぶ突っ返す。きな臭いと思えば、営業担当を事情聴取したり、メニューの写真を撮ってくるよう頼んだりすることもある」。そう言い切るのは、ポンパレ事業推進室審査チームの阿部由紀氏。この審査チームの権限はかなり強く、システム上も鉄壁だ。「我々が『価格チェックOK』のボタンを押さない限り、ポンパレに掲載されることは絶対にない」

価格審査を通過しても、今度は誤解を生みそうな表記はないか、各種法令違反はないかなどをチェックする「原稿審査」が待ち受ける。この審査も受け持つ阿部氏は、「特に、エステサロンなどは薬事法や医療法が関係する場合が多く、人体被害にも直結しやすいため、厳しく見ている」と話す。価格審査と同様、OKボタンを押さずして先に進むことはない。

掲載希望の半数が審査で脱落

こうした一連の審査は最低でも2週間はかかり、実際に掲載されるクーポンは掲載希望の半数程度だという。週に500件ほどは、ふるいにかけられ、日の目を見ずに終わる。この方針は、1月の有料化以降も揺るぎない。

1クーポンあたりの上限設定もかなり厳しく見積もり、低めに押さえている。その分、リクルートの売り上げや利益も失われる。北村室長は言う。

「歯がゆい思いはある。まじめにやればやるほど、収益が離れていく。でも、収益が行ってこいの結果だとしても、モノやサービスを販売するというビジネスの経験を得ることができる。しかも、ポンパレもホットペッパーも、クライアントに提供する1つの手段であり、単体の収益性だけでビジネスの善し悪しを判断しない方がいいんじゃないかとも思っている」

北村室長は、じつはホットペッパービューティーの事業長も兼務している。「ホットペッパーのクライアントとしても長いお付き合いをしたいからこそ、店舗に対しても消費者に対しても、無茶なことはできない。ポンパレをやりっ放しで逃げる、ということは許されない」

地味で愚直な男子か、お金持ちのイケメンか

リクルートが反転攻勢に入った。といっても、背景にはこうしたさまざまな方針や策が存在し、特に利益でグルーポンを超えるまでには、まだまだ時間がかかると見られる。北村室長が示唆するように、単体の事業としては失敗、という結果に終わる可能性もある。

グルーポンも審査体制の強化など、信頼回復に向けて全力を挙げている。一方、親会社の米グルーポンは2月10日、米スターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)を取締役として迎えたと発表した。12年以降に計画している新規株式公開(IPO)をにらみ、財務面とグローバル体制の強化に動いたとされる。

成長への飽くなき執念と、米国流の合理化されたオペレーション。対するポンパレを、リクルートのある若手女性社員は「地味で愚直。お金持ちでイケメンじゃないけれど、誠実さには自信がある」と例えた。地味で愚直な日本男子は、米国からきたイケメンに追いつくのか。いばらの道が続くことは確かだ。ただ、クーポンの掲載数は店舗からの支持率とも言える。そこに訴求するリクルートの策は、いまのところ奏功しつつある。

(電子報道部 井上理)

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