関西人はなぜ関東に比べてマグロを食べないのか
東京に比べて赤身の魚が少ない――。大阪に赴任して2カ月、市場を回っていてそう気付いた。実際、関西ではマグロの消費量が全国平均を下回る一方で、タイやヒラメなど白身魚の売り上げは多いという。この違いはどうしてだろう。
大阪市中央区の黒門市場を訪ねた。平日の早朝から夕方まで近隣の飲食店の仕入れ担当者や主婦らでにぎわう「浪速の台所」だ。6割は新鮮な水産物を扱う鮮魚店で、色とりどりの魚が並んでいる。
気になったのは、東京の築地市場で年間売上高の2割を占め、「魚の王様」といわれるマグロの少なさ。昨年まで取材で築地に足しげく通っていただけに、その違いは歴然としていた。
関西地盤の水産商社、OUGホールディングスの谷川正俊社長によれば「マグロの売り上げは年間で1割に満たない」とのこと。代わりに数多く入荷するのが、主に西日本で水揚げされるタイやヒラメなどの白身魚だ。2010年の家計調査(総務省調べ)によると、近畿の2人以上世帯はタイを年間平均で1035グラム購入している。全国平均より4割多く、関東に比べると3倍だ。
なぜ関西で白身魚の消費が多いのか。OUGホールディングス傘下の水産卸、うおいちの鮮魚担当者に聞いてみると、「瀬戸内海が目の前に広がっている影響が大きいのではないですか」との答えが返ってきた。
島が多く、流れが速い瀬戸内海では明石ダイに代表される豊富な白身魚が水揚げされる。太平洋からの黒潮があまり入り込まないため、カツオやマグロといった赤身の回遊魚はほとんど見かけないという。
味付けにも秘密があるようだ。「関西の水は軟水で昆布だしに適している」(大阪市の辻調理師専門学校)。この昆布だし、繊細な白身魚と相性が良い。江戸時代に北前船によって北海道から運ばれてきた昆布によって、淡泊なフグのうまみを引き出す「てっちり鍋」などの料理が発達。全国的に「握り」が主流のすしも、関西では白身魚を多く使う「押し寿司」が古くから親しまれてきた。
加工品でも白身魚人気は根強い。スケソウダラなどの白身魚を加工して作るかまぼこへの年間支出額(家計調査)は全国平均より2割、関東に比べたら6割多い。かまぼこの主原料「すり身」を販売する専門商社、松田産業の伊藤康之取締役は「関西の練り物メーカーは高くても良質のすり身を仕入れる」と話す。
黒門市場の店舗には5月から初夏の風物詩であるハモが並び始めた。これも関東ではそれほど食べられない魚だが、関西では大阪の天神祭や京都の祇園祭などの祭礼料理に欠かせない。
食生活の欧米化もあって全国規模では若い世代の魚離れが進んでいる。しかしフグ、ハモなどの高級魚を扱う鮮魚店、みな美(大阪市)の秦一男社長は「老若男女を問わず、幅広いお客さんが買いに来る。販売数量はほとんど落ちていない」と話す。関西では白身魚の繊細な味が、世代を超えた多くの人々の舌を楽しませているようだ。
(大阪経済部 山田和馬)
[日本経済新聞大阪夕刊オムニス関西2011年6月1日付]
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