消費電力はどこまで下がるか MS「節電ソフト」の実力
フリーライター 竹内 亮介
日本マイクロソフトはウィンドウズOSのパソコン用に、消費電力を抑えるツール「Windows PC 自動節電プログラム」を5月10日から無償で配布している。「ウィンドウズ7」「ビスタ」「XP」に対応し、ソフトやハードの設定を自動的に変更することで、より少ない電力消費で済むようにしたという。
同日行われた発表会でマイクロソフトは、「東京電力の管内にあると予想される約2455万台のウィンドウズパソコンでこの省電力設定を利用した場合、33万kwの消費電力を削減できる」という試算を示した。エアコンなどで電力需要がピークを迎える夏に備えて大きな省エネ効果を期待できそうだ。
今回はこのツールを導入し、パソコンの動作がどう変わるのかを検証してみた。
「バランス」モードを「省電力」に変更
導入作業は簡単だ。日本マイクロソフトのサイトにアクセスし、「Microsoft Fix it 50666」という文字の上にあるスパナを持った「男性アイコン」をクリック。するとファイルのダウンロードが始まる。終了後に実行すると非常に細かい設定変更が自動的に実施され、ユーザーは作業する必要がない。
「電源オプション」の設定変更を例に挙げてみよう。ウィンドウズOSには、あらかじめいくつかの動作モードが用意されている。例えばウィンドウズ7で「コントロールパネル」→「ハードウエアとサウンド」とたどると「電源オプション」の設定画面が出てくる。ここには「バランス」「省電力」「高パフォーマンス」という3つの動作モードがある。標準的な動作モードは「バランス」で、ウェブの閲覧やビジネス書類の作成など低負荷の作業では省電力で動作し、動画を扱うなど高負荷の作業では最高性能をすぐに発揮できるようにするといった、その名の通りバランスに優れた動作モードだ。
ツール導入後は、電源オプションの設定が「省電力」に切り替わる。ハードディスク駆動装置(HDD)の回転を止める頻度を高めたり液晶ディスプレーの輝度を低くしたりするなど、消費電力が大きいハードの設定を自動的に変更する。このほか、常時通信が発生しネットワーク通信機器としては消費電力が大きい無線LANでも、送信電波のパワーを低くするなど消費電力を抑える設定にする。
このほかにも、ツール導入後は「スリープモード」にも頻繁に移行するようになる。パソコンを使っていないときに少ない消費電力でパソコンの状態を保存するスリープモードは、省電力化には有効な手段である。各動作モードには「パソコンを何分使わないとスリープモードに移行する」という設定があるが、ツールを使うとこの時間が短めになる。よりこまめにスリープモードに移行するため、電力消費の抑制につながる。
省エネ効果は1台あたり3~5Wと約1割減に
実際にツールを導入してみた。たとえばHDDが止まる頻度で比較すると、標準設定では「アクセスがない状態が20分続くと停止」だったが、新しい設定では「10分」だった。無線LAN機器への利用モードも標準では「最大」だが、新しい設定では「省電力」になっていた。
消費電力を計測できるサンワサプライの「ワットチェッカー」で計測してみると、初期設定と比べて自作のデスクトップパソコンでは約3ワット(W)、ノートパソコン(ThinkPad X201s)では約5W低くなった(実験に使ったパソコンの主な仕様は表参照)。通常、パソコンの消費電力は数十Wなので、約1割の削減といえる。
省電力に設定されても使用感に影響はなかった。省電力の設定は、「キーボードやマウスなどからの入力がなく、放置された状態では無駄に電力を消費しない」ことが目的なので、日常的なウェブの閲覧や書類作成時に不便を感じることはない。
ただし液晶ディスプレーの輝度が下がると画面が見にくくなったり、画像の表示品質が落ちたりする。自分の許容範囲を越えるようなら、輝度は若干引き上げてもいい。
ツール導入後、ノートパソコンでは液晶ディスプレーの輝度はやや暗くなった。デスクトップパソコンでは輝度をウィンドウズから調整できないので、ユーザーが自分で設定を変更する必要がある。液晶ディスプレーのバックライトは、パソコンの構成パーツの中でも消費電力が大きいので、輝度を低くすることで電力消費の低減を図れる。
1台あたり3~5Wでは大きな節電効果はないように思えるが、企業全体あるいは地域全体でこうした省電力への取り組みを積極的に行うことで、ちりも積もれば山となる。日本の危機を乗り切るためにも、こうした省エネには積極的に取り組みたい。
1970年栃木県生まれ、茨城大学卒。毎日コミュニケーションズ、日経ホーム出版社、日経BP社などを経てフリーランスライターとして独立。モバイルノートパソコン、情報機器、デジタル家電を中心にIT製品・サービスを幅広く取材し、専門誌などに執筆している。
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