ビンラディン容疑者射殺 問われる米作戦の正当性
国際テロ組織アルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン容疑者を急襲・射殺した米国の作戦やその後の対応に、内外で賛否が錯綜する構図がみられ始めた。現場となったパキスタンへの通告なしに進めた作戦の合法性や、遺体写真の公開見送りなどで説明や発言にぶれも目立つためだ。米政府は正当性を強調するが、今後も続く対テロ戦争での協調枠組みを維持するうえで、国際社会に理解を求める取り組みを迫られそうだ。(ニューデリー=岩城聡、ワシントン=中山真)
作戦は合法か 国連が強い不信感
襲撃時に銃撃戦の末射殺した |
→抵抗したが武器は持っていなかった(3日) |
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容疑者の妻が盾代わりとなり死亡した |
→妻は米軍に近づき足を撃たれたが生存(3日) |
容疑者の写真「最終的に公表される」(CIA首脳) |
→非公開とする方針を決定(4日) |
来日している米ホワイトハウスのセイモア調整官(軍縮・大量破壊兵器担当)は6日、都内の米大使館で一部記者団と会見し、今回の作戦が「国際法違反とは考えない」「米政府の解釈では、軍事行動は完全に正当なものだ」などと強調。理由として「テロリストは大勢の米国人やイスラム教徒を含む世界中の市民を攻撃してきた。我々はテロリストとの戦争状態にある」とも力説した。
だが、国際社会ではパキスタンへの通告なく進めた作戦が国際法に違反するという指摘が消えていない。国連人権委員会は5日、違法性がないかどうかを調べるためにも「(米政府は)すべてを明らかにすべきだ」と主張する声明を発表した。
「対テロ作戦は国際法に従って実行されるべきだ」とも強調。容疑者が武装していたと説明した後で「丸腰だった」と変えた米国に強い不信感もにじませた。
パキスタン治安当局高官も「(容疑者らは)武装しておらず反撃していない」などと主張。「足を撃たれて意識もうろうとしている妻の目の前で容疑者を殺した」という容疑者の妻や娘の話をあげて残忍さを訴えた。
写真は非公開 米国内からも批判
写真の扱いを巡っては、パネッタ中央情報局(CIA)長官が3日「最終的には公表されるだろう」とし、米議会でも容疑者の死亡を確認するために公表すべきだとの声が高まっていた。それだけに、非公開の決定には「公開は米軍を危険にさらす可能性がある」と支持する声がある一方で「死んだかどうかという不要な論争を呼び起こしかねない」などの批判が続出している。
実際、アルカイダと密接につながるイスラム原理主義のアフガニスタン反政府武装勢力タリバンは「(容疑者の)『殉教』について報告を得ていない。正式声明を出すのは時期尚早」とのコメントを発表。インターネットでは複数の偽物写真も出回っている。
詳細説明の修正も「政府はこれまでもウソをついてきた」(映画監督のマイケル・ムーア氏)など国内の疑念を広げる。米政府が「テロとの戦いの勝利」と印象づけてきた作戦への米国内の祝福ムードは、急速にしぼみ始めた観もある。
パキスタン支援疑惑 EU・中国で擁護論も
いったんは国際社会で広がったパキスタンの「容疑者支援疑惑」も、ここにきて雲行きに変化がみられる。
5日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「パキスタン軍統合情報局(ISI)の誰かが容疑者をかくまっていたことを疑う余地はない」という欧州の情報機関高官の言葉を紹介。米政府はなお「パキスタン関与」を強く疑う。
だが擁護論も出始めた。欧州連合(EU)は「パキスタン政府の対テロ戦の努力を今まで以上に支持する」と表明。北大西洋条約機構(NATO)高官は「パキスタン当局を称賛する」とし、中国外務省報道官も「国際社会はパキスタン政府を理解し、支援すべきだ」と強調した。