官邸の東電不信、原発対応の連携にひずみ
独自の専門家増強、情報共有に支障も
福島第1原子力発電所の事故への対応を巡り、首相官邸内で東京電力や経済産業省原子力安全・保安院への不信感が強まっている。菅直人首相は東日本大震災後、原発の専門家ら6人を相次ぎ内閣官房参与に起用。東電への疑心が首相を官邸の体制強化に走らせ、結果的に官邸、東電、保安院の情報共有など3者連携にひずみを生む悪循環に陥りつつある。足並みが乱れれば危機対応に支障が出る恐れがある。
28日午前、官邸では枝野幸男官房長官や仙谷由人官房副長官らへのあいさつ回りをする田坂広志多摩大大学院教授の姿があった。田坂氏は東大大学院で原子力工学を学んだ経験を持ち、近く内閣官房参与に就任する。
総勢15人。内閣官房参与の異例の増員は首相の強い不信感の表れだ。「東電や保安院から情報が出てこない」。首相は最近、親しい関係者にこう不満を漏らした。
22日には官邸に保安院の寺坂信昭院長と原子力安全委員会の班目春樹委員長を呼びつけ「もっと連携をよくしろ」と叱責した。
新たに起用された6人のうち4人は、東電や保安院の情報に頼らない「セカンドオピニオン」「サードオピニオン」との位置付け。本来は東電や保安院と一体となって事故対応に臨むはずの官邸だが、東電と距離を置いているように見える。
「放射線の測定は安全確保の大前提。間違いは決して許されるものではない」。枝野長官は28日の記者会見で、同日朝に官邸に東電関係者を呼びつけ、こうしかりつけたことを明らかにした。福島第1原発2号機のタービン建屋内にたまった水の分析で東電が放射線量の発表の訂正を重ねたことを批判したものだ。
事故発生直後に原子炉の圧力を下げる「ベント」と呼ばれる作業が遅れたことについては「(官邸側は)早くやるよう繰り返し東電に求めた」と主張。地震発生翌日の12日朝に首相が視察を敢行したことで作業が遅れたとする見方を否定した。
一方、原子力安全委員会の班目委員長は28日の参院予算委員会で、視察の背景に関して「首相が『原子力について少し勉強したい』ということで私が同行した」と答弁。首相の判断を強調した。
首相は福島第1原発の事故による避難指示を半径20キロ圏内にとどめた判断については25日の記者会見で「専門家の集まりである原子力安全委員会で分析、判断していただいた中で決めた」と述べ、安全委員会の責任を強調してみせた。官邸、東電などがそれぞれ責任を回避するかのような話しぶりも目に付く。