ドコモとKDDI、スマートフォン新機種で下した決断
ジャーナリスト 石川 温
NTTドコモ、KDDIが相次いで春商戦向けのスマートフォンとタブレット端末を発表した。両社に共通するキーワードは「グローバル」だ。
NTTドコモは、NECカシオモバイルコミュニケーションズの「MEDIAS」、ソニー・エリクソンの「Xperia arc」、韓国LG電子の「Optimus Pad」を発表。対するKDDIは台湾HTCの「EVO WiMAX」と米モトローラ・モビリティの「XOOM」を発売する。NECカシオの端末以外はどれも、世界市場向けのグローバルモデルを調達した。
関係者によると、どの機種もスケジュールを大幅に前倒しして投入したという。
世界最薄の7.7ミリが売り物のMEDIASは、そもそも防水機能付きで6月に発表する計画だった。「それでは遅すぎる。防水機能をなくしてでも春に発売できないか」というNECカシオの社内調整で、発売を3月に繰り上げた。スマートフォンで大幅に後れをとっていたNECカシオの危機意識が、MEDIASを春商戦に間に合わせたといえる。
KDDIのEVO WiMAXも、当初は6月に発表する予定だった。「HTCの素晴らしさはソフトウエア開発能力だ。(米グーグルの基本ソフトである)Android(アンドロイド)搭載スマートフォンに対するノウハウもあり、短期間に開発する能力はずば抜けている」とKDDIの田中孝司社長は称賛する。
HTCは昨年から米携帯電話会社スプリント・ネクステルに同型機を供給しているが、KDDI版へのカスタマイズに要した期間はわずか3カ月程度。HTCに発注後、あっという間に日本向けモデルが完成したという。
モトローラのXOOMも、交渉は数カ月程度に過ぎない。無線LAN機能のみを搭載したモデルで第3世代(3G)携帯電話やWiMAXに対応していないこともあり、短期間での調達が可能となった。
テザリング解禁に踏み切ったドコモ
今回の新製品は、日本のスマートフォン、タブレット端末市場にとって大きな節目と捉えることができる。
NTTドコモやKDDIはこれまで、スマートフォンにも日本市場特有のニーズを取り入れようとする傾向が強かった。OSのアンドロイドにも手を入れて、携帯電話会社の独自仕様を反映させてきた。しかし、今回の新製品発表には、グローバル仕様を進んで取り込もうという意気込みが感じられる。
LG電子のOptimus Padは、モデム代わりにパソコンなどをインターネットに接続する「テザリング機能」を備える。NTTドコモの料金体系では認められない機能だが、「アンドロイドの最新バージョン3.0(HoneyComb)をいち早く日本に導入したかったため、OSに手を加えてテザリング機能を外すことはしなかった」(NTTドコモ関係者)という。
このため、Optimus Padのパケット料金の上限5985円を支払えば、パソコンをつないでいくらネット接続しても、追加のパケット料金を請求されない。タブレット端末とノートパソコンを一緒に持ち歩く人はあまり多くないかもしれないが、NTTドコモが公式にテザリングを解禁したことは大きな意味を持つ。
KDDIは新800MHz拡充、SIMカードも不要に
KDDIもグローバル仕様を採用するため、思い切った決断をした。EVO WiMAXは、KDDIが使っている3Gの周波数帯のうち新800MHzと2GHzだけに対応している。800MHz帯は現在、周波数の再編途上にあり12年中ごろまでは旧800MHzも使用しているが、これには接続できない。
このため、KDDIの他の機種と比べると、通信可能エリアは見劣りする。プレスリリースにも「発売当初は一部ご利用できないエリアや、一部電波状態が不安定な場所があります」と明記したほどだ。
日本の携帯電話会社としては異例だが、KDDIの増田和彦コンシューマ事業本部サービス・プロダクト企画本部長は「通常利用なら特に問題はないだろう。心配するレベルではない」と語る。田中社長も「新800MHz帯のネットワークを急ピッチで改善している。数カ月で完了する」としており、海外で多く使われる新800MHz帯のエリア拡充を急ぐことで、グローバルモデルの調達をさらに加速させようとしている。
KDDIがグローバルモデル導入にあたってもう1つ準備したのが、契約者情報を記録するSIMカードを使わずに端末に直接書き込む仕組みだ。
KDDIの通信方式であるCDMA2000方式の端末は必ずしもSIMカードを採用する必要がない。実際、同じCDMA2000方式の米ベライゾン・ワイヤレスとスプリントは、どちらもSIMカードを使っていない。EVO WiMAXに先駆けてスプリントが発売した姉妹機の「EVO 4G」もSIMカードがない仕様だ。そこでKDDIは、EVO WiMAXの発売に合わせて端末に契約情報を書き込めるようシステムを変更した。
「グローバルモデルが使える新800MHz帯ネットワーク」「SIMカードがなくても端末に契約者情報を書き込める仕組み」――。この2つの条件は何を意味するか。
現実味帯びるKDDI版iPhone
それは2月11日に米国でベライゾンが発売したCDMA2000版「iPhone4」を日本で受け入れる準備ができているということだ。
ベライゾンのCDMA2000版iPhoneは、日本に持ち込むとKDDIの新800MHz帯周波数をキャッチする。ベライゾンから発売されているため、SIMカードは当然ない。田中社長はiPhoneについて「ノーコメント」を貫いているが、KDDI版iPhoneの登場は、着実に現実味を帯びてきている。
CメールをiPhoneのSMS(ショート・メッセージ・サービス)に対応させるなどの課題は残るが、KDDIがグローバルモデルの導入に舵を切ったことで、状況は大きく変わった。今年のスマートフォン市場にはまだいくつもの波乱が待ち受けていそうだ。
月刊誌「日経Trendy」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226
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