リビア、カダフィ体制窮地に 騒乱が首都に波及
【ドバイ=松尾博文】リビアの最高指導者カダフィ大佐の独裁統治に抗議する民衆のデモが首都トリポリにも及んだ。政権側は徹底的に弾圧する構えを崩さず、流血の事態拡大への懸念が強まっている。アフリカ有数の産油国の不安定化は原油市況にも影響を与える。41年にわたりリビアを強権的に統治してきたカダフィ体制は窮地に立っている。
トリポリ中心部にある「緑の広場」。20日夜、ここに掲げられるカダフィ大佐の肖像に反体制を唱える市民が投石を始めた。デモは複数の場所で発生し、治安部隊との衝突は夜半まで続いた。中心部のホテル従業員はロイター通信に「町中が騒乱状態」と語った。
チュニジアやエジプトの政変に触発され、北東部のベンガジで抗議デモが発生したのは15日。それから1週間足らずで、カダフィ大佐のお膝元である首都まで不満のうねりは到達した。
リビアの北東部地域は歴史的にイスラム原理主義勢力の活動が活発だ。かつてクーデター計画が表面化するなどカダフィ体制に敵対的な姿勢を示し、これまでも弾圧を受けてきた。今回の騒乱にも政権側は強力な警察・軍事力で押さえ込み、首都には波及しないだろうとの見方が外交筋や専門家にも多かった。
国内第2の都市ベンガジでは反体制の勢力が都市の大半を掌握した。軍内部の兵士の中でも離反が相次ぎ、一部がデモ隊とともに政府軍と戦っているとの情報もある。
20日夜、国営テレビを通じて演説した大佐の次男で、有力な後継候補のセイフイスラム氏は「内戦の危機にある」と混乱を認め、憲法制定に向けた国民対話など政治改革の実行を約束した。一方で「カダフィ大佐は最後の一人になっても戦う」と述べ、デモとの対決姿勢を改めて明確にした。
1951年 | リビア連合王国として独立 |
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69年 | 9月に革命。指導者のカダフィ氏が以後独裁を続ける |
86年 | 米、経済制裁発動。テロとの関与を非難し空爆を実施 |
92年 | 国連安保理、制裁決議 |
99年 | 国連安保理、制裁停止 |
2003年 | カダフィ氏、大量破壊兵器の放棄を約束。無条件で査察受け入れ |
04年 | 米、経済制裁解除 |
06年 | 米、テロ支援国家の指定解除 |
エジプトでは軍が中立を保ったのに対し、リビアでは今回、軍や治安部隊がためらうことなく銃器を使用。ベンガジでは機関銃や対戦車ロケット弾なども投入した。犠牲者はすでに200人を超えたとの見方も多い。
情勢の悪化に伴い一般の国民は反発を深める。セイフイスラム氏の演説にも「うそつき」と冷ややかで、対話による収拾は望みにくい。人口の3割に相当する200万人が暮らす首都で騒乱が広がれば犠牲者が増えるのは確実だ。
欧米諸国は混乱拡大に警戒を強めている。米国務省は20日、リビア情勢に「重大な懸念」を表明。ロイター通信によると、米政府当局者はセイフイスラム氏の演説を分析したうえで、リビアに対し「あらゆる行動」を検討していることを明らかにした。ヘイグ英外相は同日、セイフイスラム氏に電話し、対話と政治改革の実行を求めた。