1票の格差、今春にも最高裁判断 高裁で次々「違憲」
司法の是正圧力強まる
衆参両院の「1票の格差」を巡り、是正を求める司法判断が相次いでいる。2009年衆院選の定数訴訟では高裁で「違憲」や「違憲状態」判決が続出、最高裁は一連の審理を大法廷へ回付し、早ければこの春に最終判断を下す。昨夏の参院選でも高裁レベルで5件の違憲判断が出ている。現行定数配分には「少数の有権者が過半数の議員を選んでおり民主主義に反する」との批判もあり、最高裁の判断に注目が集まりそうだ。
■衆院で2.30倍、参院は5.00倍
1票の格差は09年衆院選で最大2.30倍、10年参院選では5.00倍だった。「格差は違憲」と訴える弁護士グループが全国の高裁・高裁支部で提訴。原告になってくれる有権者を各地で探して一斉提訴する手法で「格差是正を国民運動にする」(中心メンバーの升永英俊弁護士)という。
衆院選を巡る9件の定数訴訟では、09年12月に大阪高裁で違憲判決が出たのを手始めに、違憲判決が4件、「違憲状態」判決も3件相次いだ。参院選では14の高裁・高裁支部で訴訟が起こされ、これまでに東京高裁などで計5件の違憲・違憲状態判決が出た。今年も1月25日の高松高裁などの判決をはじめとして、10件の判決が出される見通し。
衆院選の訴訟は合憲、違憲にかかわらずいずれも上告され、最高裁が大法廷(裁判長・竹崎博允長官)に回付。大法廷は2月に当事者双方の意見を聞く弁論を開いたうえで、春にも結論を出す。参院選の各訴訟でも原告側は上告の構えで、上告が出そろえば、最高裁は衆院選と同様に大法廷回付するとみられる。
■改善案提案も
最近の判決では、格差是正が遅々として進まないことにいらだつかのように、選挙制度の具体的改善策や試算に言及するケースが目立つ。
昨年12月16日に参院選を巡り違憲状態判決を言い渡した広島高裁岡山支部。高田泰治裁判長は都道府県を選挙区とし、3年ごとの半数改選のため偶数の定数を置く必要がある現行制度について「変更を考えるべきだ」と明言。人口の少ない県は隣接県と合区したり、改選を6年に1度にしたりすれば、定数配分を柔軟にできると述べた。
11月に違憲判決を出した東京高裁の南敏文裁判長も「衆院選でも比例代表でブロック選挙区を設定している以上、参院選でも都道府県をまたいだ選挙区設定は十分可能」と指摘した。
衆院選について3月に違憲判決を出した福岡高裁の森野俊彦裁判長は、小選挙区の定数を都道府県にまず1議席ずつ割り振る現行の「1人別枠方式」がなければ、格差は1.6倍に収まると試算。「過疎地対策」などをうたい文句に導入された同方式を「議員の延命策だ」と切り捨て、国会を「努力せず座視している」と痛烈に批判した。
■「少数決」と批判
国政選挙を巡る定数訴訟は従来、投票価値の格差が「憲法の定める法の下の平等に反する」との主張が中心だった。升永氏らの弁護士グループが主張の中心に据えるのは、現行の定数配分下では少数の国民が多数の国会議員を選んでおり、「民主主義に反する」という点だ。
グループによると、定数配分のゆがみのせいで、衆院では全有権者の42%、参院では33%が、選挙区選出議員の過半数を選ぶ結果になっているという。「半数未満の有権者が過半数の国会議員を選ぶのは、多数決ではなく少数決だ」と主張。国民の意思が国会に正確に反映されていないと訴えている。
現職国会議員にとって定数配分は自らの命運を左右しかねず、抜本是正は先送りされてきたのが実情。弁護士グループは「利害関係者である国会議員には任せておけず、裁判所が結論を出すべきだ」と求めている。最高裁が違憲判断を国会に突きつけることになるのか、今後の大法廷判断に注目が集まりそうだ。
(社会部 山本有洋)