エジプト、事態収拾探る 副大統領と野党対話
改憲委設置で合意
【カイロ=松尾博文】混迷が続くエジプト情勢は、スレイマン副大統領を軸に事態収拾を探る動きが鮮明になってきた。副大統領と野党代表は6日、改憲準備委員会の設置で合意し、非常事態法解除の検討でも一致した。政権側は強権支配の象徴を取り下げることで野党との対話を加速する構え。しかし、野党側は政府の譲歩は不十分としており、長期化するデモが収束に向かうかどうかは不透明だ。
スレイマン副大統領と野党代表や有識者グループは6日の協議で、改憲準備委員会の設置など今後の政権移行スケジュールを確認した。協議後に政府が公表した声明によると、同委員会は3月第1週までに答申を提出する。治安改善を条件に非常事態法を解除することも確認した。同法は1981年の発令以来継続したままになっており、ムバラク政権による政党弾圧や情報統制を可能にしてきた。
混乱の長期化で経済活動は停滞、市民生活の正常化を望む声も広がっている。6日に営業を再開した銀行には市民の長い列ができた。政権側はこのタイミングをとらえて歩み寄りを示し、事態の沈静化につなげたい考え。ムスリム同胞団が協議に応じる姿勢に転換したのも、国民の"デモ疲れ"を意識すると同時に、非合法扱いを受けてきた同胞団が政治参加の機会を得る好機との判断もあるとみられる。
■米、副大統領の役割重視
協議ではムバラク大統領が次期大統領選挙に出馬しないことを改めて確認した。しかし、声明は大統領の即時退陣については触れていない。ロイター通信によると、ムスリム同胞団幹部は政府の対応を不十分としたうえで、政府が自由選挙の保証など要求を満たすまで抗議行動を続ける考えを示した。
カイロ中心部のタハリール広場では6日も大統領退陣を求めるデモが続いた。しかし、「退陣の日」と名付けた4日の大規模デモ以降、大きな衝突は起きていない。
エジプト情勢を注視する米国もスレイマン副大統領の役割を重視している。5日にはバイデン副大統領がスレイマン副大統領と電話会談し、野党との交渉状況について協議した。ムバラク大統領の即時退陣を迫ってきた米政権には野党との対話の行方を見極めようとする姿勢も出ている。
スレイマン体制の下で台頭しているのが軍部だ。内閣改造後の新首相には空軍出身のシャフィク前民間航空相が就任した。タハリール広場に展開する軍部隊は抗議行動を容認する一方で、タンタウィ国防相ら軍高官が連日現場に訪れ、「軍と国民の団結」を訴え、反体制派の信頼を獲得しつつある。
■経済重視派は一掃
一方、大統領次男のガマル氏が5日、政権与党である国民民主党(NDP)の政策委員長から更迭された。党は軍とともにムバラク体制を支える柱。ガマル氏は銀行マンとして英国などで勤務後NDP加入。経済改革路線を推進する中心人物として、党のナンバー3の地位についていた。
先月に総辞職したナジフ内閣やNDPには、多国籍企業の中東・北アフリカ代表だったラシード通商産業相や大手製鉄会社を経営するアハマド・エッズ氏ら、ガマル氏に近い財界出身者が多数起用されてきた。シャフィク内閣では、こうした経済重視派は貧富の格差拡大を生んだ元凶として一掃され、出国禁止や銀行口座の凍結措置を受けている。
軍内部では以前から軍務の経験のないガマル氏の権力継承には否定的な意見があったとされる。軍は国民の批判に乗じる形でガマル派の排除にも成功した形だ。