対立の阿久根に閉塞感 水産業低迷、目立つ空き店舗
住民投票によるリコール(解職請求)の成立で竹原信一市長(51)が失職、1月に出直し市長選が行われる鹿児島県阿久根市。接戦だった開票結果は、地域経済の疲弊など閉塞状況を打開する強いリーダーを望む市民がなお多い実態を映した。ただ、終わりの見えない対立と混乱への市民の不満は確実に強まっている。
住民投票から一夜明けた6日。阿久根駅前の商店街は、午前10時を過ぎてもシャッターを下ろしたままの店舗が目立つ。買い物客はまばら。「いくら『空き店舗の活用』などと叫んでも、こんな状況では開業する人なんていないよ」。食料品店の経営者(62)が諦め顔でつぶやいた。
阿久根市の人口は2万4千人弱。10年前より1割減った。高齢化と若者の流出も進む。基幹産業の水産業は低迷し、九州新幹線鹿児島ルートから外れたことも衰退を加速。「仕事がないから街にとどまれない。街全体が負のらせん階段を下っている」。阿久根商工会議所の黒川健二専務理事(62)は肩を落とす。
こうした状況が竹原前市長の「改革」への支持を生んだことは間違いない。今回、反対票を投じた市内の水産加工会社勤務の男性(45)は「市と議会が合意形成を図るといった悠長なことを言っていられる経済状態ではない。今の阿久根には強力なリーダーシップが欠かせない」と話す。
市内のパチンコ店を11月に定年退職したばかりの女性(65)も「改革には決断力が必要。住民も多少の混乱や痛みは受け入れざるを得ない」。住民投票での賛否の差はわずか398票だった。
ただ、市全体を二分してきた対立は市民生活に影を落とす。水産業の男性(55)は「誰が聞いているか分からないから、市政の話は職場でも本音を言い合えなくなった」と語る。
肝心の地域振興も、なおざりになっているとの不満がくすぶる。「観光振興策などで市に相談しても話が進まない」(黒川専務理事)。阿久根商議所は今年7月、地元漁協などと港の再開発や観光拠点整備など街づくり戦略を立案する研究会を発足させたが、市は「既に独自に街づくりを進めている」として不参加。研究会は11月、休会に追い込まれた。
出直し市長選は1月16日に投開票される。3選出馬を表明した竹原前市長と、反市長派が擁立する西平良将氏(37)の一騎打ちとなる可能性が高い。前市長と対立した市議会の解散を求めるリコール運動にも多くの署名が集まっており、混乱はなお続く見通しだ。
「政争の話はもう、うんざり。出直し市長選では街の将来ビジョンに関わる生産的な議論が聞きたい」。市内の飲食店に勤める女性(50)は嘆く。市民の視線は厳しさを増している。