企業の「フェイスブック」ブームにバブルの気配
ブロガー 藤代 裕之
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「フェイスブック」に関心を示す企業が増えている。創業者マーク・ザッカーバーグ氏らを描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」の公開も重なり、ビジネス誌の特集や関連本、セミナーは大盛況だ。ミニブログの「Twitter(ツイッター)」も同じような歩みで拡大したが、フェイスブックは個人ユーザーより企業の思惑が先行して「バブル」となる危険はないか。
調査会社ニールセン・オンラインによると、ツイッターの国内ユーザー(家庭と職場からのアクセス)は2009年4月には52万人だったが、09年末から急増。1月から約3カ月で3倍に伸び、10年12月末には1290万人に達した。一方、フェイスブックも約1年遅れで同じような動きを見せつつある。各種データを公開しているサイト「socialbakers.com」によると、日本のユーザー数は10年12月まで180万人台で足踏みしていたが、11年1月に入ってから220万人超へと伸びた。ツイッターのように今年春から夏に向けて訪問者が急増する可能性はある。
米国の社会学者エベレット・ロジャーズは、イノベーティブな商品やサービスの普及パターンを「イノベーター(革新的な採用者)」「アーリーアダプター(初期の採用者)」「アーリーマジョリティー(初期の多数派)」など5つの利用層で説明している。このうち、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた層(普及率で16%)を超えると、急激に普及するとしている。
日本のネット利用者は統計では1億人近いが、実際に使っている人はそれより少なく、普及率16%は約1000万人とみていいだろう。ツイッターはそこに差し掛かったところだが、フェイスブックはまだアーリーアダプターに浸透してきたレベルだ。
ホームページと同じようなもの?
ここからマジョリティーに広がるプロセスでは社会事象が大きくかかわる。ツイッターが急拡大したときは、鳩山由紀夫前首相がアカウントを開設し、宇宙飛行士の野口聡一さんやソフトバンクの孫正義社長など多くの著名人が利用した。それらが政治や経済と結びつき、社会現象やニュースとして広がった。
フェイスブックも書籍や映画の公開で話題になるだけでなく、最近はエジプトやチュニジアの政変との関連でも注目されている。ただ、知名度の高さに見合うほど日本の利用者はまだ増えていない。そのギャップが企業先行という今の現象を生んでいるのではないか。
企業がフェイスブックを受け入れやすいのには理由がある。それは「フェイスブックページ(ファンページから名称を変更)」の存在だ。ここには企業の情報や写真、動画、イベントなどのコンテンツを配置することができ、集客する「場」と説明されることが多い。これまでの「自社ホームページ」と同じようなものと言われれば、理解しやすいわけだ。
一方、ツイッターのトップページにあたる「タイムライン」は分かりにくい。フォローしたユーザーの書き込みが反映されるため、人によって入る情報が異なる。フェイスブックにも同じように「ウォール」というページがあるのだが、フェイスブックページに焦点を当てて説明すれば、分かりにくい部分が省略される。
この「ホームページ感覚」があるため、運営を外部に任せようと考える企業も出てくる。実際、フェイスブックページを見ると、企業が委託を受けて運営を代行していると書いてあるところもある。委託していることを明らかにしているだけましかもしれないが、肝心の運営が他人任せではソーシャルメディアを理解しているのかと疑問を持たれても仕方がない。
ソーシャルメディアでは、顔が見えるコミュニケーションによって信頼関係が構築され、ユーザーがファンになっていく。その現場を他社任せにするのはもったいないし、なによりノウハウが社内にたまっていかない。
これはバブルに終わった仮想空間の「セカンドライフ」と同じパターンだ。セカンドライフにも「土地」という概念があり、仮想空間でのコミュニケーションの経験がなく面白さを知らなくても、「人が多いところに土地を買えばいいのだ」と理解することができた。
この「理解できた」のは誰か。日本企業の意思決定は中高年層が担うことが多い。つまり、中高年が理解できるプロモーションやマーケティング施策が通りやすいことになる。実際、現場の人と話をすると、ビジネス誌や映画のCMを見ただけの経営トップや管理職が「フェイスブックで何かできないか」「活用できないか」と注文してくるとの戸惑いの声を聞く。その経営トップや管理職がフェイスブックに登録して、使っていることは少ないそうだ。
フェイスブックの現状を考えると、急激に利用者が増えたところで当面は経験を積むためのテストという位置付けでよいと思われる。サービスの状況を見ず、ムードだけでソーシャルメディアに乗り出しても成果は得られない。セカンドライフを教訓にするなら、新しい仕組みを古い考えや枠組みで理解してしまうことが失敗の最大の原因なのだ。
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。
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