がん死亡率「10%低下」の試算も 学会で議論
がん研究の第一人者が最新の成果などを発表する「日本癌(がん)学会学術総会」が大阪市内で始まった。テーマは「がん征圧へ向けての知の統合」。23日には「我が国のがん対策」と題したシンポジウムがあり、がんの仕組みや治療法などの研究をいかに現場のがん対策に効果的に結びつけるかなどについて議論を交わした。
国立がん研究センターの津金昌一郎・予防研究部長は「疫学調査の研究をがん対策に積極的に応用すれば日本人のがんのリスクはもっと下げられる」と問題提起した。喫煙や飲酒、生活習慣などとがんの発症や進行との関係などを追跡調査した研究は数多い。こうした科学的なデータに基づいてがんの予防法などをまとめ、周知していく必要性を訴えた。
大阪府立成人病センターの井岡亜希子氏は、がんの早期発見の推進や喫煙率の改善などによって、がんによる死亡率を10%引き下げられるとの試算を発表した。これまでの国のがん対策に一定の評価を示しつつも「優れた研究に基づいてがん対策を整備すれば、死亡率はまだまだ改善できる」と指摘した。
国立保健医療科学院の今井博久・疫学部長は47都道府県それぞれのがん対策計画を分析。「医療設備の状況などを踏まえた意欲的な計画を策定できている都道府県もある」としつつも、「もっと具体的な数値目標などを盛り込み、それぞれの地域の実情に合わせて独創的な対策を講ずる必要がある」と述べた。各地域の大学や医療施設が連携して研究を進めることが不可欠だという。
会場からは「がん対策には数千億円の税金が使われているが、どれだけ国民に還元できているのか研究者は考えているのだろうか」などの厳しい質問も。2時間半のシンポジウムは活況を呈した。
学会ではこのほか、がんの基礎知識や最近の研究の潮流を解説する講演会「がん研究入門コース」を初めて設けた。若手研究者などを中心に多くの聴衆でにぎわった。また、胃がん、肺がんなどの病気別に最新の治療戦略を紹介するシンポジウムでは実際の手術の映像なども交えた発表があり、専門家どうしが活発に議論した。学会は22日に始まり、24日まで開かれる。3日間の合計で約2350もの演題が発表される予定だ。