日本製ケータイがなくなる日
編集委員 西條都夫
「日本の携帯電話がガラパゴス化した」といわれて久しいが、いつまでこの状態が続くのだろう。といっても、日本のケータイがガラパゴスを脱して世界に飛躍する日を想像しているのではない。逆に最後の楽園だったはずの日本国内市場も外資メーカーに席巻され、日本企業が携帯電話の端末事業から総撤退という事態もあり得るのではないか。そんな危機感を覚えざるを得ないのだ。
最近、NTTドコモの経営幹部と話す機会があった。この人はドコモの生え抜き的存在で、端末メーカーとの付き合いも長いが、「今日本メーカーは生き残れるかどうかの瀬戸際」という。
ガラパゴス化のいわれた日本市場だが、実は「外来種」もじわじわと勢力を伸ばしている。2009年度のシェアでみると、外資系(ソニー・エリクソンを含む)のシェアは15%程度。自動車市場における「輸入車」シェアのほぼ4、5倍に当たる数字であり、米アップルの高機能携帯電話(スマートフォン)「iPhone(アイフォーン)」のように存在感のある機種も目立つ。
NTTドコモは今秋から韓国サムスン電子製のスマートフォンを発売する。自ら発光する有機ELを使ったディスプレーは液晶とはひと味違う美しさがあり、「目の肥えた日本のユーザーもこれには驚くだろう。相当話題になるはず」とこの幹部はいう。
一方で日本勢はいまひとつ元気がない。再編の動きはあるが、これが本格的な反転のきっかけになるのか、長い衰退プロセスの中の1局面なのかは何とも言い難い。
おそらく数がモノを言うケータイの世界で、成熟化の進む日本市場にしがみついて生き残っていける可能性はそう大きくはない。ドコモの幹部によれば、「今が日本メーカーが世界に出て行く最後のチャンス」という。幸い端末のOS(基本ソフト)ではグーグルの「アンドロイド」がほぼ世界標準の座を確立しつつある。アップルのように独自のソフト技術がなくても、「アンドロイド」を使えば、世界に通用する端末ができる。
パソコンとの類比で考えればわかりやすいが、パソコンでも世界標準の「ウィンドウズ」を搭載したソニーや東芝のノート型パソコンが世界で売れてきた。技術の主導権、収益の主導権はマイクロソフトやグーグルが握るとしても、日本メーカーが得意のものづくりの技をいかして、ソニーの「VAIO」のような独自の端末をつくれば、日本製ケータイが世界に飛躍できるかもしれない。
だが、このチャンスを逃せばどうなるか。ドコモ幹部は「日本のケータイ産業は米国のテレビ産業のようになってしまうかもしれない」と不気味な予言をする。RCAやジーナスなどかつては米国にも多数のテレビメーカーがあったが、今ではどれも残っておらず、産業そのものが消えてなくなってしまった。
アメリカ人はテレビ大好きで、「テレビの前にいる時間が最も長い国民」といわれるが、彼らにテレビ受像機を供給しているのは、米国企業ではない。これと同じ事態が、「ケータイ大好き」の私たち日本人にも起こるのだろうか。それを避けるために残された時間は少ない。