円、一時80円台に突入 アジア通貨高が波及
ドル全面安
円高・ドル安が止まらない。14日の欧州外国為替市場で円は一時1ドル=80円88銭に上昇。15年半ぶりの高値となり、1995年4月19日につけた史上最高値(79円75銭)まで1円あまりに迫った。米国などの追加金融緩和の観測から投資マネーが市場にあふれ、新興国へ大量に流入している。その結果、ドル全面安のなかでアジアの通貨高が加速しており、シンガポールドルなどは対ドルでの最高値を更新。同じアジア地域にある円の上昇圧力が一段と高まっている。
1ドル=80円台は95年4月20日以来。円買いの一巡後は政府・日銀が円売り介入に動く可能性が意識され、81円台半ばまで戻す場面もあった。
円高が進んだ背景にあるのはアジア通貨の急上昇。シンガポールドルは14日午前に史上最高値を更新した。金融通貨庁(MAS)が自国通貨(実効為替レート)の変動許容幅の拡大を表明。事実上の通貨切り上げを受けて銀行などがシンガポールドル買い・米ドル売りを集中させた。
人民元も中国人民銀行が同日、基準値を1ドル=6.6582元と2005年7月の切り上げ後の最高値に設けた後、銀行間取引で元高がさらに進んだ。今後も先進国からの元の切り上げ圧力をかわそうと、中国当局が人民元高・ドル安の方向に誘導していくとの観測が出て、ヘッジファンドなどのドル売り・アジア通貨買いに弾みがついた。韓国ウォン、台湾ドルなども上昇。資源国でもオーストラリアドルが83年の変動相場制移行後の最高値をつけた。
市場には米連邦準備理事会(FRB)が11月に大胆な金融緩和に動くとの観測が根強い。FRBは緩和によってドル資金を一段と大量に市場に供給するとみられ、米金利がさらに低下すると同時に「ドルが世界の市場で今以上にあふれかえる」との見方が多い。
そうしたマネーは金利が低く景気先行きに不安のある先進国から、金利が相対的に高く成長の見込める新興国へと移っていく可能性が高い。この流れを先読みした投資家がアジアの通貨や株式などを買っている構図だ。
国際金融協会(IIF)がまとめた10月時点の予測によると、10年の新興国への民間資本の流入額は8250億ドルに達し、09年に比べて4割増える見通しだ。4月の予測(約7090億ドル)から上方修正した。先進国からの資金流入が要因だ。
この結果、新興国にはインフレ懸念が高まっている。シンガポール金融通貨庁は通貨の変動幅拡大について「コストの上昇圧力が高まっている」とインフレ警戒に言及した。新興国の多くは大量の自国通貨売りの介入で通貨高を食い止めてきたが、インフレや景気刺激につながる大量介入の継続は難しくなるとの声もある。10月下旬以降の20カ国・地域(G20)会議では先進国の金融緩和が新興国経済の過熱をもたらす問題が焦点になりそうだ。