イタリア首相、緊縮路線転換を鮮明に 所信表明演説
【ジュネーブ=原克彦】イタリアのレッタ首相は29日の所信表明演説で、景気回復に向けて減税に踏み切る意向を示した。「若者の雇用対策が緊急課題」とも強調。モンティ前首相の緊縮路線から転換する姿勢を鮮明にした。6月分から不動産税を凍結するほか、今年に予定している付加価値税(VAT)の引き上げも撤回する。
議会は同日夜(日本時間30日未明)、大連立で発足した新内閣の信任投票を始める。最大勢力の民主党で大規模な造反が起きなければ、正式に新政権が発足する見通しだ。
レッタ首相は29日の下院での演説で「財政規律は重要」としながらも、「緊縮策だけではイタリアは死んでしまう」と指摘。失業率の上昇に危機感を表明した。経済政策では減税と同時に、若者を中心に雇用対策を強化すると強調。18カ月後に景気が回復していなければ、首相を辞任すると示唆した。演説中、議員らが総立ちで拍手を送る場面もあった。
首相は、政治改革では上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」が生じやすい選挙制度を改正する方針。国政の実質的な権限を下院に集約する考えを示した。
イタリアでは議会が解散した昨年12月以降、4月28日まで約4カ月にわたりモンティ前首相が選挙管理内閣の首相を続けていた。新内閣はレッタ首相が属する中道左派連合の民主党のほか、議会第2勢力の中道右派連合で主軸の自由国民、モンティ氏の政党連合からも閣僚を抜てきした。
ベルルスコーニ元首相が率いる自由国民は、連立に応じる条件の一つに不動産税の廃止と払い戻しを挙げていた。同党の下院代表は地元紙のインタビューに、レッタ首相が所信表明で不動産税の廃止を宣言しなければ、信任投票で反対票を投じると語っていた。
ANSA通信によると、信任投票はまず下院で現地時間29日午後8時(日本時間30日午前3時)前後に始まる予定。上院では下院の結果が出てから投票が始まる見通しで、30日に持ち越す可能性もある。
2月の総選挙では中道左派が下院で過半数の議席を獲得したが、上院では過半数に届く政党連合が出なかった。イタリアでは上院と下院がほぼ同等の権限を持ち、内閣の信任も両院でそれぞれ過半数の賛成票を得る必要がある。
中道左派はモンティ前首相の改革路線を引き継ぎつつ、雇用にも配慮した政策を実行することを選挙公約に掲げた。一方、中道右派は経済活性化のため財政再建路線の抜本的な軌道修正を唱えてきた。経済以外の分野でも双方の主張の隔たりは大きく、レッタ内閣は選挙制度を改めることに特化した暫定政権で終わるとの指摘もある。