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任天堂・岩田社長が語る"本当の"ソーシャルゲーム

「3DS」「Wii U」の逆襲(前編)

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 任天堂のゲームビジネスをめぐる潮目が変わりつつある。2012年3月期、決算公表以来初の営業・最終赤字に転落。世間では「スマートフォン(スマホ)とソーシャルゲームに押され、じり貧に陥っている」と解釈された。しかし、ここにきて「Wii U」と「3DS」という2つのハードとソフトの販売が好調に推移。岩田聡社長は「スマホは味方」「ソーシャルゲームとしても、うまくいっている」という。いったい任天堂に何が起きているのか。岩田社長が語った。

岩田社長がこれほど気分が晴れた正月を過ごすことができたのは何年ぶりのことだろう。

2012年12月に発売したばかりの新しい据え置き型ゲーム機、Wii Uは好調な滑り出しを見せた。シンクタンクのメディアクリエイト(東京・千代田)によると、Wii Uの国内販売は発売3週目で累計55万7901台。6年前、06年12月に発売された前世代機、Wiiの3週目の数字、54万4034台に並ぶ。

岩田社長は「テレビと手元のコントローラーの画面、これら2つの画面を使った新しい提案を実感してくださった方には、かなり満足していただけている。手応えはある」と話す。それ以上に岩田社長が好感触をつかんでいるのが、この2月で発売から丸2年が経つ携帯型ゲーム機の3DSだ。「3DSに関していうと、『どうぶつの森』が流れを変えた感じが明らかにあるんです」

3DS向け「どうぶつの森」、発売1カ月半で約230万本のヒット

12年3月期の赤字は「3DS」不振によるものだった。期初の業績予想は、3DS本体の年間販売見込みが世界1600万台、ソフトが同6200万本。だが結果は、11年8月に本体の値下げをしたにもかかわらず、ハードが1353万台、ソフトが3600万本と及ばない。ところが12年11月発売のソフト「とびだせ どうぶつの森」がヒットすると、引きずられるように3DS本体の売れ行きも伸び始めたのだ。

どうぶつの森は、どうぶつたちが暮らす森でさまざまなイベントをゆったりと楽しむソフト。ゴールや目標はない。その最新版、とびだせ どうぶつの森には、村長となって「村」を運営できる機能が追加され、ほかのユーザーの村と互いに行き来する交流機能も強化された。

これが発売からわずか1カ月半強、12年末までに国内で約230万本も売れ、大ヒットとなった。パッケージ版の生産が部品供給の遅れで滞り、岩田社長がお詫びする事態に。どうぶつの森発売以降、3DS本体の国内販売も100万台以上上乗せされ、累計販売台数はこの1月中に1000万台の大台に乗る見込みだ。

実は、どうぶつの森の230万本のうち、約50万本はパッケージ版ではなくダウンロード販売。任天堂のダウンロード販売では過去最高の数字で、岩田社長も「4800円のソフトが、ダウンロードだからといって安くせずに50万本以上売れたというのは、ちょっとした事件なんです」と驚きを隠さない。

「私、見たことないです。こういう売れ方」

"事件"はほかにも起きた。岩田社長は「まずデータの話からちょっとね」と愛用の「MacBook」を取りだし、理系大学、エンジニア出身らしく、数字に裏打ちされた説明を始めた。

「クラブニンテンドーという仕組みを使うとお客さんがどういう性別、年齢かが分かるんですけど、どうぶつの森が発売3週間後の11月末頃にどんな売れ方をしていたかというと、一番飛び出ているのが19歳から24歳の女性。19から24って、わりと任天堂の支持層の少ない年代なんですね。私、見たことないです。任天堂のゲーム機でこういう売れ方するソフト」

「でね、もっと面白いのが、3DSのハード購入者の属性。全体の男女比は男性69%、女性31%という偏りなんですが、どうぶつの森と本体を同時に買った人に限定すると、男性44%、女性56%になる。これね、ちょっと唖然(あぜん)とするほどの数字なんです」

「世の中のよくある議論でいうとね、スマホがあるからもうゲーム専用機なんかいらないっていうことになってるじゃないですか。でも、この19から24の女性って、まさにスマホの人たちですよね。女性カジュアルユーザーはゲーム専用機なんかいらない、というけれど、むしろゲーム専用機の価値を再認識していただけているんです」

「正直、執念のようなものを感じました」

好調な時ほど岩田社長はデータを多用する傾向にある。喜々として説明する岩田社長の姿は、どこかなつかしい。岩田社長によると、クラブニンテンドーは若干、男性バイアスのかかった母集団。つまり実際の数字は、上記の説明以上に女性が多いということになる。この事件を説明したうえで岩田社長は、「で、どうぶつの森がなぜ今回、こうなったのかということについて、いろいろと考えるところがあるんですが……」と先を急ぐ。

「どうぶつの森って(前世代の)ニンテンドーDSですごく評価いただいて、500万本以上も売れて世の中を驚かせ、DSブームの1つの典型としてかっていただいた。ですが、Wii版ってのがあってね、すごく期待されて世の中に出たんですが、実はあまりうまくいかなかったんですね。我々からすると、すごく反省点が多いソフトだったんです」

「で、どうぶつの森のコアメンバーたちは、そのときの反省をバネにしました。今度こそお客さんに満足してもらえるものを作ろうと。あえてこの言葉を使いますが、開発の中核メンバーたちからは私、正直、執念のようなものを感じました」

「今回、こんなこともできるのか、ここまでやるかっていうくらい、さまざまな仕掛けを本当にたくさん入れてある。加えて、例えばお客さん自身が絵を描いて面白いデザインの家具を作れるみたいなことをいろんなところに反映できるようにした結果、我々が用意した仕組みと、お客さんが発揮したクリエイティビティーのかけ算になって、すごく面白いものになった。それを広めてくれたのは、ソーシャルメディアであり、スマホなんです。今回、どうぶつの森を大人の女性に売ってくれたのは、間違いなくスマホなんですよ」

どうぶつの森の動画、ユーチューブで160万回再生

スマホは任天堂の敵、ではなかったのか。岩田社長の言葉は次第に熱を帯びていく。

「今回のどうぶつの森はスクリーンショットをどこでも撮れますから、それをソーシャルメディアにあげて、こんなことをやったよ、わーってみんなで盛り上がるみたいなことが起きている。例えばツイッターでフォローしている人がどうぶつの森についてすごく熱く語っていて、それを見て興味を持ち、やってみたら面白かったというような方がたくさんいらっしゃるんです」

「我々、動画サイトを通じて任天堂の魅力をお伝えする『ニンテンドーダイレクト』という動画配信をしているんですけれど、今回のどうぶつの森を紹介した動画は、ユーチューブで160万回も再生されている。しかもその過半数がスマートデバイスからの視聴なんですよ」

「ソーシャルメディアで話題になり、この動画を見ると分かるよとなり、これはすごいってなってご購入いただけた。だいたい3分間のミュージックビデオじゃなくて、開発者がだらだらとゲームについてしゃべっている47分の動画を160万回も見ていただけたっていうのは、ちょっとあり得ないこと、異常なことだと思います」

曖昧な「ソーシャルゲーム」の定義

スマホはどうぶつの森の拡散に大いに貢献した。だからスマホは任天堂の敵ではなく味方なんだ――。そう話す岩田社長は、同じく敵とされているソーシャルゲームについても、「どうぶつの森は、ソーシャルゲームとしてもよくできている」と、世間とは違った見方を示す。

ソーシャルゲームという言葉の定義はじつに曖昧だ。一般にメディアは「GREE」や「Mobage(モバゲー)」といったモバイル向けゲームサイトにあるようなゲームを指すが、「ユーザー同士が交流できるゲーム」という言葉の本来の意味を考えれば範囲は広がる。そう解釈すれば、3DS向けどうぶつの森もまた、立派なソーシャルゲームといえると岩田社長は主張する。

今回のどうぶつの森にはユーザー同士の「バトル」も「ガチャ」もないが、ネットワークを通じて最大4人が同時に同じ世界で遊んだり、チャットをしたりすることができる。常夏の「島」ではみんなで協力しあってメダルを獲得するミニゲームに挑戦できたり、「夢見の館」にいけば知らない誰かが作った「村」を自由に見て回ることもできる。こうした平和で牧歌的な「交流」機能が「大人の女性」にも受け入れられ、口コミの拡散に拍車をかけていると岩田社長は話す。

「純粋な思いで作った」どうぶつの森

「開発メンバーのみんなは、ソフトを何個売るかなんて誰も考えてない。遊んだ人に今度こそ満足したっていわせてみせるという執念と、自分たちも大好きなゲームをもっとよくしたいという純粋な思いで作ったんです。で、これ1本のためにゲーム機とソフト、合わせて2万円以上も投資してくださった方が何十万人も出てくださった。それは恐らく、他のゲームの仕事をしている人たちにはない作り方、他のゲームにはない現象なんだろうと、私は思います」

岩田社長のいう「他のゲーム」とは、GREEやモバゲーの世界のことである。

GREEやモバゲーが開拓したソーシャルゲームの世界は、最初はタダで遊べて、はまったユーザーが後からアイテム課金をして楽しむ「フリーツープレー」が基本。フリーツープレーか否かという定義でいえば、任天堂と、GREEやモバゲーの世界には明らかな違いがある。そうした世界の新たなビジネスモデルについて、岩田社長は、どう捉えているのだろうか。

「フリーツープレーを否定するつもりはない」

「デジタルでのディストリビューションが可能になり、少額決済も可能になったことで、娯楽の提供とお金のいただきかたのバリエーションが増やせるようになった。それは世の中の変化であり、ゲームの質で勝負するのも、お金のいただきかたで工夫をするのも、私は同じようにクリエイティブなことだと思います。だから、後からの課金や、フリーツープレーについて、私はまったく否定するつもりはありません」

「じゃあ、それを任天堂がやるかどうかについてですが、まず、任天堂がすでに知名度や面白さの信用を確立した商品について、そういうことをするつもりは、あまりない。例えば『マリオ』のソフトに4800円なり5800円を出す価値を認めていただいてる方に対して、課金してカギを開けないと楽しめない、というようなことはしないということです」

「でも、マリオでもっと多くのステージを遊びたいという人たちもいらっしゃるわけで、その人たちに向けて新たなコースを作り、課金して追加できるようにするというようなことは別の話。それは一部タイトルですでに始めています。そして、任天堂も知名度ゼロの新規タイトルについて、このゲームの構造はフリーツープレーに向いているね、ってなったら、やるかもしれないし、フリーじゃなくてチープから始めるかもしれない」

「販売方法の自由度が生まれたわけで、その自由度を自分たち自身で消してしまおうとは思ってはいません。ただ、そういうものが任天堂から出たとしても、それは任天堂が変節したのではなくて、新たな自由度を生かすために面白いアイデアが生まれたので使いました、ってだけ。マリオや『ポケモン』の売り方を変えましょう、という話ではありません」

ソーシャルゲーム業界の収益を支えるもの

任天堂もフリーツープレーに挑戦する含みを残した岩田社長。時期については、「我々自身がこれは手応えがあるって思ってからでないと世に問うべきではない。個々のタイトルの期日を細かく決めすぎると、ひと粘りできなくなるので決めてない」と明言を避けた。

ただし、これをもって「任天堂がアイテム課金に変節、ソーシャルゲーム陣営に対抗」などと騒ぎ立てるのは早計だ。「お金を払えば払うほど有利になる」という、いわゆるソーシャルゲームで主流となっている構造を持ち込もうとしているわけではないからだ。

GREEやモバゲーではやっているソーシャルゲームの主流は、カードバトルゲーム。見知らぬ他人とカードの強さを競うタイプで、強くするためには有料の「ガチャ」を引いて戦闘能力の高いレア(希少)なカードを当てたり、あるいはショップでバトルを有利にするアイテムを購入する必要がある。ゲーム運営会社は、ユーザーの課金タイミングを分析しながら、イベントや新たなアイテムの追加といった課金額向上のための施策を巧妙に投入するのが基本だ。

相手に打ち勝ち、仲間に褒められることで得られる「優越心」「虚栄心」、さらにはガチャによるまぐれ当たりを期待する「射幸心」を刺激されたユーザーは、際限なく課金を繰り返すようになる。それが、今のソーシャルゲーム業界の収益を支えている。

「私なりに思うことは当然あります」

こうしたビジネスモデルは、後から課金する「アイテム課金」とは分けて考えるべきであり、岩田社長は否定的に考えている。これまで決算説明会などで幾度も、「『数字のパラメーター(設定値)だけを触って何かのカギを開けるとか、何かがものすごく有利になるとかという形で課金する』ということを追求すると、確かに短期的に収益は上がるのかもしれませんが、お客さまと私たちの間で、長期的な関係は作れない」などと話してきた。

この部分を掘り下げるべく、岩田社長に「射幸心をあおって課金を促す手法について、どう考えているのか」と突っ込んで聞いた。任天堂プラットフォームでゲームソフトを提供しているゲーム会社の多くは、GREEやモバゲーにソーシャルゲームを提供している。だからであろうか、岩田社長はひとつ1つ言葉を慎重に選びながら、話し始めた。

「私には私なりに思うことは当然あります。自分の商道徳から考えて絶対に受け入れられないことをやっている方たちがいるのも事実です。ですが、私の今の立場でそれを外に向かって発言できるかっていうのは、また別の話でね。しかも、今うちの業績が何の問題もないならいざ知らず、ずっと長いあいだ続いていた記録を途絶えさせてしまった張本人である私が他社さんのサービスについてあれこれいうのは、これは違うだろうと思っている」

「ただ、我々は、お客さまが(任天堂や同社のゲームに)どれだけ敬意を持ち続けていただけるかで、長期的な関係が築けるかどうかが決まると思っているんですね。私は、そっち(射幸心をあおる手法)にいかなくても、ゲームビジネスの健全性を維持してみせると思ってやっています。それを世に示した1つの例が、どうぶつの森ですね」

「本物かどうかを決めていただくのはお客さん」

「どうぶつの森を楽しんでいただく人がもっと増えて、もっと社会で話題になって、これが本物のソーシャルゲームだといっていただけたら、世間の見方が変わるチャンスかもしれませんね。ただね、これが本物かどうかを決めていただくのはお客さんなんで、私がこれが本物ですというわけにはいきませんから。これが質が高いソーシャルゲームだよねとか、これが本物だよねといっていただける方が増えるといいなぁという以上には言えないですけどね」

「任天堂は任天堂なりの方法でソーシャルゲームを発展させ、健全なゲームの世界を守り抜く」――。岩田社長の言葉を咀嚼(そしゃく)すれば、そういうことになる。とびだせ どうぶつの森は、そんな任天堂が考えるソーシャルゲームを体現し、多くの人に受け入れられた。

だが任天堂流のソーシャルゲームは、これに終わらない。昨年12月、任天堂は、任天堂なりのソーシャルゲームを発展させる新たな挑戦に取り組み始めた。(後編は13日掲載予定です)

(電子報道部 井上理)

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