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「もう人類に体罰の実験は必要ない」

ジャレド・ダイアモンド氏 インタビュー(上)

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「体罰について人類はすでに1000年単位の試行錯誤を重ねてきた。だからもうこれ以上実験をする必要はない……」。待望の新刊「昨日までの世界 文明の源流と人類の未来」(上下巻、日本経済新聞出版社)を執筆したピュリツァー賞受賞者、ジャレド・ダイアモンドさん(75)が来日、インタビューに応じた。「銃・病原菌・鉄」で、文明の広がりを壮大なスケールで描いた筆者が、今回取り組んだテーマは、何万年もの未開時代を生きぬいてきた「昨日までの人類」に何を学ぶか。人類の長い営みを踏まえ、体罰や少子高齢化の問題をどうとらえるのか、語ってもらった。

――「昨日までの世界」ではニューギニアの部族社会におけるフィールドワークなどをもとに、文明化される以前の伝統的社会と近代社会を比較している。生命の危険が減り、個人が尊重される現代社会の利便性と引き換えに、我々が失ったものも小さくないようだ。

「『伝統的社会』というと、野蛮な人種の集まりと思う人もいれば、とても平和的な人たちと考える人もいる。伝統的社会に対する人々のイメージが両極端なのが問題だ。伝統的社会に生きた人たちは現代社会に生きる私たちと同じように、良い所もあれば、悪い所もある。伝統的社会が現代社会より優れているとは言わないが、伝統的社会の良い点、悪い点から学べるところがあることは確かだ」

「(文明の発展によって)得るものもあれば、失うものもあるということだ。伝統的社会では、個人個人のつながりが強く、社会生活は充実している。その代わりプライバシーはほとんどない。米国で20年以上過ごしたニューギニア人の友人がこのたび母国へ帰ることにしたのだが、米国でなにが一番好きだったかというと、プライバシーだという。米国では、街角のカフェでコーヒーを飲んでいても、ニューギニアのように物乞いが来ることもなく、誰からも邪魔されない。それがすばらしい、と」

日本の高齢化の特殊性

――「昨日までの世界」を読むと、現代的な問題の解決のヒントが、人類の経験則から得られるかもしれないと思えてくる。たとえば日本の高齢化問題を解くカギになりそうなことはあるか。人類史上なかった事態とも思われるが。

「日本のような高齢化社会は先進国では一般的だ。欧州各国や米国でも高齢者が増えており、若者が減っている。しかし、日本が欧米諸国と異なる点が2つある。1つは、日本の平均寿命が欧米より長いこと。2つ目はとても大きな違いなのだが、欧米各国は移民が多いことだ。欧米では、減っている自国民を移民が補っている。日本は移民を好んでいないため、少ないのが特徴だ」

――日本も移民という解決策を考えていくべきだろうか。

「日本がどうすべきかについては、日本が決めることだ。私には同様の社会がどのようにこの問題に取り組んでいるのか教えることしかできない。移民を受け入れた欧米では、移民に対する偏見や、移民がその社会にうまく溶け込めないなどといった問題が起こっているのも確かだ」

「移民国である米国と、そうでない日本のノーベル賞の数の違いを比較するのもおもしろい。日本は多額の金を科学研究につぎ込んでいるが、欧米に比べてノーベル賞が少ない。日本のノーベル賞受賞者を見ても、ほとんどが欧米に留学しており、留学時の研究の結果で受賞していることも多い。一方で、多くのノーベル賞を受賞している米国は、移民が多いことがプラスに働いているといえるだろう。その米国が移民国家として生まれ、(独立以来約)225年の移民受け入れ実績があるのに対し、日本の文化はそうではない。移民受け入れをためらうのも理解できる。『日本は移民を受け入れるべきだ』などとたやすく言えることではない」

――高齢化社会ではまず高齢者が社会的にもっと活躍して、頼りにされるようになる必要がある。著書によると、伝統的社会も高齢者に優しい社会ばかりではなかったが、語り部や知恵袋として大事にされ、現在より高齢者の居場所が多い時代や地域があった。

「まず、日本の定年退職制度が問題だと思う。日本人の友人のひとりに、すばらしいバイオリン奏者で教師の女性がいる。彼女がこのあいだ嘆いていた。『60歳で定年退職しなくてはならず、教えるのを辞めなくてはならない』と。なんともったいないことか。30年間も海外で音楽を学び、世界各国で演奏経験を積んだ貴重な人材が、教師としての技量もピークであるにもかかわらず、60歳になったというだけで教えられなくなってしまう。これは日本にとって損失だ」

定年退職制度が弊害に?

「日本がどのように高齢者を活用すべきかというと、まず、彼らの才能や経験を次の世代に伝えさせられるようにすべきだ。日本は60歳など定年を決めてしまっていることで、そういった貴重な人材を社会から追い出してしまっている」

――伝統的社会には近代のような定年制はない。定年制は工業化社会、つまり文明がもたらした不幸といえるのか。

「定年退職はこの200年間にできた制度だ。それまでは定年退職はなく、ほとんどの人は仕事ができない体になるまで働いたか、死ぬまで働き続けていた。しかし、現代では、まだ働ける体や脳があるにもかかわらず、定年退職制度があるため、60~65歳で働くのをやめてしまう人が多い。定年退職の年齢を早めれば早めるほど、その国は早く衰退していくだろう」

――日本にも少し前まで、祖父母が孫の面倒をみて昔のことを教えるなどといった、高齢者が頼られる文化があった。

「もう昔には戻れないので、現代社会に合った、新しい高齢者活用法を生み出していかなくてはならない。たとえば近年は欧米でも日本でも、女性の立ち位置が変わった。昔はほとんどの母親が主婦をしていたが、今では、多くの女性が社会に出て働いている。そうすると、誰かが子供の面倒をみる必要が出てくる。米国では、ベビーシッターを雇うなどしている人が多いが、すぐにやめられてしまう可能性がある。しかし、祖父母の多くは孫と過ごす時間をほしがるため、簡単にやめたりしない。ただ、私は全ての高齢者が孫の面倒をみるべきだと言っているわけではない。ずっと子育てをしていたから、老後は旅行したいという人もいるだろう。数多くある老後の選択肢の1つとして、孫の世話があるということだ」

――日本の筒井康隆というSF作家が、高齢者が増えすぎたため、高齢者同士を戦わせて勝者だけを残す、というめちゃくちゃな世界(「銀齢の果て」)を書いている。あくまで物語だが、このまま行ったらどうなるのだろう、という恐怖はある。

「知恵と経験を持った高齢者に働きたいだけ働いてもらうことで、そうした(不幸な)事態を避けられるだろう。全ての人を80歳まで強制的に働かせるというわけではない。働きたいという人を働かせられるようにすればいいのだ。働くのが好きで、定年後も働きたいという高齢者はかなり多くいると思う」

――日本のスポーツ界で体罰が問題になっている。伝統的社会には荒々しく粗暴なイメージがあるが、子供をたたくだけでなく、褒めて育てる文化もあったようだ。この問題で伝統的社会の側からいえることは?

「伝統的社会でも、体罰を与える社会と体罰のない社会がある。それは文化的な違いで、環境的な違いではない。例えば、フランスではカエルを食べる文化があるが、英国では食べる習慣はない。しかし、カエルはフランスにも英国にも存在する。これは体罰の文化にも似ている」

子供をたたくしつけ、牧畜社会に

「牧畜社会は狩猟社会に比べ、子供をたたく文化が多い。その理由は、守るべき財産があるからだ。もし、子供が家畜のいる小屋のフェンスを開けっ放しにするミスをしたとしよう。その子供の小さなミスで、全ての家畜が逃げ、全財産を失ってしまう場合がある。そのため、子供がミスをしないよう、体罰でしつけをするのだ。狩猟社会では、特に守るべき財産がないため、体罰を与えてまで子供をしつける必要に乏しい」

「日本のスポーツ界についてはこんな実験をしてみることも可能だ。つまり体罰を与えるクラスと体罰のないクラスを設定し、20~30年かけて、どっちのクラスのほうが勝つことが多いか調べるのだ。しかし、それは現実的に困難だ。我々には伝統的社会が長い年月をかけて行ってきた『実験』の成果がある。それを参考にして、子供の教育やしつけに生かせばいい。歴史から学ぶべきだ。もうどこかの社会で実験済みのことを、わざわざ繰り返してミスを重ねる必要はない」

(聞き手は電子版ライフ編集長 篠山正幸)

※後編は3月1日掲載の予定です

ジャレド・ダイアモンド氏 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部生理学教授を経て、現在は同校地理学教授。1937年ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修めるが、やがてその研究領域は進化生物学、鳥類学、人類生態学へと発展していく。アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会会員。アメリカ国家科学賞、タイラー賞、コスモス国際賞、マッカーサー・フェローシップ、ルイス・トマス賞など受賞多数。200本以上の論文を発表したほか、一般書も数多く出版。世界的大ベストセラーとなった『銃・病原菌・鉄』ではピュリツァー賞を受賞。おもな著書に『セックスはなぜ楽しいか』『文明崩壊』などがある。

「昨日までの世界――文明の源流と人類の未来(上・下)」

領土問題、戦争、子育て、高齢者介護、宗教、多言語教育……。人類が数万年にわたり実践してきた問題解決法とは? ピュリツァー賞受賞の世界的研究者が、身近なテーマから人類史の壮大な謎を解き明かす。好評発売中。

昨日までの世界(上)―文明の源流と人類の未来

著者:ジャレド・ダイアモンド.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,995円(税込み)

昨日までの世界(下)―文明の源流と人類の未来

著者:ジャレド・ダイアモンド.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,995円(税込み)

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