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「制振」から「制震」 2度の大震災が表記を変えた

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東日本大震災から11日で2年が経過した。震災を機に、自宅マンションなどの地震対策が気になりだした人も多いだろう。対策は大きく3つに分類される。地震の揺れに耐えられるように建物を頑丈に、粘り強く造る「耐震」構造。基礎部分(地中)に設けた機構によって揺れと建物とを切り離す「免震」構造。その中間が、建物に施した装置によって揺れを吸収することを目指す「せいしん」構造だ。この構造、ゼネコン(総合建設会社)各社によって「制振」「制震」と表記が異なっているが、安全性に差があるのだろうか。

国語辞典はばらばら

国語辞典を引いてみると、「制振構造のみ」の掲載や、「制震のみ」「制震構造のみ」「制振・制震、制振構造・制震構造を併記」などばらばら。三省堂国語辞典は他の国語辞典に先駆けて採用した1992年の第4版で制振だった見出しを、2008年の第6版では「地震や風でたてものがゆれるのをおさえること」という語釈を変えないまま制震に変更している。

専門の用語辞典類を参照してみると、様相は一変。制振が優勢となる。20近い建築・土木関係の用語辞典類では大半が制振のみを掲載しているか、制振をメーン見出しに掲げた上で制震を併記しているのだ。そんな中で唯一、制振構造・制震構造を別々に定義していたのが「建築学用語辞典第2版」(日本建築学会編、99年)。制振構造を「制振(振動制御)のメカニズムをとり入れた構造。風や地震による構造物の揺れを目標値以下に抑える目的で用いられる(略)」、制震構造を「制振構造のうち、特に地震に対する揺れを抑えるメカニズムを組み込んだ構造」と解説している。

包括概念か個別概念か

近年の主な用語辞典類での「制振」「制震」の扱い
制振、制震を別々の項目として掲載
建築学用語辞典第2版(1999)
制振のみ掲載
イラスト詳解建築・設備工事現場用語(2011)、新しい建築用語の手びき(10)、新版図説建築用語事典(05)、早引き建築現場用語辞典(96)、建築用語辞典(95)、逆引き・建築用語辞典(94)、建築学用語辞典初版(93)
制震のみ掲載
新しい建築設備・インテリア用語の手びき(02)、建築・土木用語がわかる辞典(98)、建築大辞典(93)、現代建築施工用語事典(91)
制振(制震)などと併記して掲載
現場管理用語辞典(12)、図解建築現場用語辞典(05)、図解事典建築のしくみ(01)、土木用語大辞典(99)
制震(制振)などと併記して掲載
建築構造用語事典(04)

ただし「せいしん」単独では「振動を自動的に感知し、それを低減させるために人為的に制御すること(略)」として制振のみを載せている。この点からも制振は地震や風を含む全ての揺れに対する包括的な概念であり、制震は地震の揺れに対する個別的な概念だという関係がうかがえる。広い意味と狭い意味のどちらを重視するかの差にすぎず、もちろん安全性に違いがあるわけでもない。ではなぜ制振の方が一般的な概念となり、用語辞典類でも優勢となったのか。

根拠となりそうなのが、文部省(当時)が学術用語の整理・統一を目的に各分野の学会と共編した「学術用語集」。「建築学編」(増訂版、90年)は「制振」を学術用語として定めている。「震」を使う「耐震」(複合語の語幹として)や「免震」も収録しているだけに、「振」を使うことへの明確な姿勢が読み取れる。分野を変えて「土木工学編」(増訂版、91年)も「制振対策」を学術用語に制定している。建築学編は55年の初版でも制振単独ではないものの「制振器」を収録。つまり制振は国のお墨付きという公的な根拠があるだけでなく、伝統にも裏打ちされた表記だといえる。それなのになぜ、表記の差異が生まれるに至ったのだろうか。

大手では鹿島だけが制震

ヒントはゼネコン大手5社にあった。ホームページの工法解説などのコーナーの表記で大成建設は「耐震・免震・制振」と震の字に交じる形でもあえて制振を使用。「揺れは地震だけではない。高層建築の風の揺れを制御するのが制振技術の始まり」と語り、総称としての制振に重きを置く。竹中工務店も「全ての揺れを含む、広い意味で『てへん』を使っている」とほぼ同じ答えだ。

一方で大林組では「震の字を使うと地震だけの揺れの意味になってしまう」として強風などの揺れには制振、地震の揺れには制震を使い分ける立場。耐震・免震との整合性も考慮したという。清水建設も「建物に入っていく地震動や、地震が発生している間の揺れを抑えるのは『震』」として制震と制振を併用している。こうした区別は建築学用語辞典の解釈ともおおまかに合致する。ところが残る1社、鹿島だけは制震表記を貫いているのだ。

元副社長が「震」に込めた思い

それもそのはず。制震という言葉を世に広めた立役者こそ、85~92年に在任した鹿島の元副社長その人だからだ。工学博士で1級建築士、京都大学名誉教授でもあった小堀鐸二氏(07年死去)。2歳9カ月で関東大震災に被災した経験から、地震被害の低減に向けた研究へ人生をささげた。制震という言葉へ強い思い入れがあった小堀氏の意志(遺志)を、鹿島は忠実に守っているといえそうだ。

小堀氏が「制震理論」を提唱し始めたのは50年代後半。その背景を鹿島関連会社で小堀氏が社長も務めた小堀鐸二研究所(東京・港)は「(地震を制するという意気込みが字面からも伝わる)制震という構えでなければ、安全なものは造れない」との信念に基づくと説明する。地震に対して受け身の姿勢でなく、能動的に対処していく必要を説いたのが小堀氏の理論。「地震による振動を制御するのは技術的に最も難しい。難度が最も高い地震を制御できれば、風による振動や機械振動など他の振動の制御はよりたやすくなる」(同研究所)。著書「制震構造」(93年)も同様の理由を挙げて「制御技術の難易度からすれば、むしろ『制震』が『制振』を包含するとみなければならない」と述べており、鹿島が制震表記にこだわることになった原点を見て取ることができる。

会社や学閥の代理戦争にも発展

制震がもともとは少数派だった事実を、端的に物語る新聞記事がある。鹿島は89年8月、小堀氏を責任者として「世界最初」と銘打った「制震装置」の実用操業を東京・京橋で公開。この模様を報じた朝日新聞8月8日付朝刊8面の見出しが振るっていた。「制震で制振に挑戦 鹿島、清水建設両社 技術開発つばぜり合い」

というのもゼネコン最大手を争う好敵手、清水建設はその直前の7月、当時の一般的な表記に従った「制振装置」の開発成功を発表したばかり。さらに、鹿島が制震装置を公開したペンシルビルは清水建設本社の斜め向かいという立地だった。おまけに、清水建設の責任者だった副社長は東京大学名誉教授の大崎順彦氏(故人)。地震研究の双璧とされる京大と東大の代理戦争にも重ね合わされた。時あたかもバブル絶頂期とあって大学から迎えた大家の下、最先端技術の開発にしのぎを削った時代でもあった。どちらの技術が今後の主流になるのか――。制震vs制振は、単なる表記の差異にとどまらない争いだった。

流れを変えた阪神大震災

清水建設は現在では制振、制震双方の表記を認める立場へと方向転換したが、89年当時に制震を用いなかった理由について、99年に死去した大崎氏は生前「当時の技術では大型ビルの地震動を抑えるのは難しかった。大規模な電源が要るため実用的ではない。地震ではなく振動一般を抑えることに特化する意味で制振を使った」と話していたという。となると一体どんなきっかけで制震も併用するようになったのか。

95年の阪神大震災が、制震表記が普及する契機だったと清水建設はじめゼネコン各社、建築学会ともに口をそろえる。93年の初版で制振のみを載せていた建築学用語辞典が、99年の第2版では制振構造・制震構造の併記へと転じたのは好例。学術用語集では「地震学編」が74年の初版では制振のみだったのを、00年の増訂版で制振・制震併記へ改めている。

制震の分かりやすさに支持

人々の地震への関心がにわかに高まり、制震という表記がクローズアップされる機会も急増。より安全な技術を望むニーズに応えようと各社が競い合い、研究開発も進む。技術が進歩し、ダンパー(振動吸収装置)などの部材も制震という表記にそぐう高性能なものが広く実用化されるようになった。「震」の字から地震対策であることが簡潔に表現できたり、前面に押し出せたりする点も支持を集める大きな要因だったとみられる。

そして11年の東日本大震災。未曽有の大地震を経て、その流れはさらに強まった。日本経済新聞(朝夕刊、専門紙)の記事件数では12年、制震は制振の倍近く登場している。だからといって揺れ全般に対する総称としての用法や、風や交通振動を抑える意味での制振という表記がなくなるわけでもない。どちらかが正しくてどちらかが間違っているという関係ではないからだ。

制振から制震へ、表記の「揺れ」は抑えられそうにない。

(中川淳一)

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