「初歩的なミスなぜ」 外国人記者が見た侍ジャパン
「何であんなことをしたんだ」。野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝でプエルトリコに敗退して3連覇を逃した日本代表について、外国人記者に聞くと、一様にこう聞き返してきた。
1点を返した八回裏一死一、二塁、重盗のサインに一塁走者・内川がスタートした。ところが、二塁走者・井端はスタートが遅れて三塁に進まず、内川が一、二塁間で挟殺された場面だ。
■「3連覇の重圧で焦ったとは思わない」
日本代表の選手でも、こうした初歩的なミスをするのか、というのだ。
あの走塁ミスは"ボーンヘッド"と思っているようだが、気を使っているのかそんな言葉は使わない。「驚いたというか、ショックだった」と、スポーツ専門局ESPNキャスター、ペドロ・ゴメスさんは話す。
過去2大会とも日本代表は基本プレーがしっかりしており、「日本はミスをしないというのが、最も印象的だった。短期決戦では一番大切で、それを日本人はよく分かっていると思っていたから」とゴメスさん。
■プエルトリコを買いかぶり過ぎていた?
3連覇の重圧で焦ったのではないか。日本で報じられている意見に対しては「そうは思わない」と聞いた全員が話す。
むしろ「球場が寒くて、体が動かなかったのかな。日本はドーム球場ばかりだから。それよりも、日本はプエルトリコを買いかぶり過ぎていたのではないか」。こう話すニューヨークの日刊紙、ニューズデーのデービット・レノン記者のような見方が多かった。
日本代表の4番で主将の阿部が「(決勝ラウンドに行くと)今までと投手の格が違う。メジャーの一線でやっている選手ばかりだから」と話したが、「そんな選手、セデーニョとJ・C・ロメロぐらいだ。ロメロはぜんぜんダメで今、所属先がない状態だよ」。スペイン語局のESPNデポルテスのエンリケ・ロハスさんは言う。
プエルトリコの打者はそこそこメジャー級がそろっていたが、投手にメジャーリーガーは少なく、3A、2A、1Aの選手も多数いた。「(日本戦では投げなかったが)18歳の投手までいた。何で日本は打てなかったんだ。投手は全然良くないのに」とロハスさん。
■兄が仕込んだ「メジャー一番の捕手」
ロドリゲス監督ですら「2次ラウンドに進出できて満足」と言ったほどだ。「野球は何が起こるか分からない」としながらも、ヒスパニック系メディアですら、日本の3大会連続決勝進出は固いと見ていた。
ただ、プエルトリコの捕手、ヤディエル・モリーナの影響力の大きさは、見落としていたかもしれない。
2011年ワールドシリーズで、世界一まであと一死としたレンジャーズを追い詰めて逆転、世界一になったカージナルスの正捕手だ。全員が文句なく、「メジャーで一番の捕手」という。
ベンジー、ホセ、ヤディエルのモリーナ3兄弟はそろってメジャーの捕手で、全員がワールドシリーズで優勝している。
■なぜわざわざ勝負に出たのか
ホセも今大会、プエルトリコ代表だ。「10年前、ベンジーとホセが『僕らよりヤディエルの方がいい捕手だ』といっていた。兄2人に仕込まれたヤディエルは頭もいいし、打撃も足もある」と、ニューヨークのラジオ局WBCSプロデューサーのビト・ビラさんは話す。
日本代表の山本浩二監督によると、「マウンドにいた投手のモーションが大きかった」から重盗を試みたとされるが、「ヤディエル相手にはどうかな……。打席は四番打者だったでしょ」とビラさん。
わざわざ勝負に出たことを不思議に感じたのはロハスさんも同じ。冷静に対処すれば、崩せない投手陣ではなかったからだ。
「配球は上手だったかもしれない。日本打者は内角が打てないと見て、内角を攻めてから、外角に落として、シンプルだったけれどね。全員がヤディエルを信頼している」とロハスさんは話す。
2Aや1Aの選手にすれば、雲の上の存在のヤディエルとバッテリーを組めることで、本来以上の力が出ていたかもしれない。
■「中田がカッコイイ」と絶賛
今後、メジャー挑戦を予想される選手を探すのも記者たちの楽しみだ。「投手の田中将大(楽天)を見たかった」という声は多かった。
プエルトリコ戦に先発した前田健太(広島)については制球の良さを評価したが、「線の細さ」を心配する声もあった。メジャーの打者はただ速いだけの速球はすぐ慣れるし、日程も日本では想像できないほどタイトだからだ。
ヒスパニック系メディア、ドミニカチームのゼネラルマネジャー、レオ・ロペスさんらが「カッコイイ」と絶賛した選手がいる。中田翔(日本ハム)だ。打席の雰囲気だけでなく、ルックスが「いい」らしい。
■規律を守ることに懸命すぎた
3連覇を逃して、「みんながっくりしているだろう」。ESPNデポルテスの記者で、元ホワイトソックス、ブリュワーズのベネズエラ担当スカウトだったマイク・フロレスさんは心配してくれた。
「日本は試合を楽しむよりも、規律を守ることに一生懸命すぎたように見えたよ」。こうした勤勉さこそ連覇をもたらした日本人らしさだが、今回は「楽しくなければ始まらない」というカリビアンたちに、勝利の女神はほほ笑んだようだ。
(原真子)