ゲーム用端末で3Dスキャン、マイクロソフトが開発
製造業などに応用
米マイクロソフトが音声認識やジェスチャーといった「NUI(ナチュラル・ユーザー・インターフェース)」の技術開発を加速させている。日本マイクロソフトは28日、人の身ぶりや手ぶりを認識し、機器を操作する「Kinect(キネクト)」装置用のソフトに3D(3次元)で対象物をスキャンできる機能を追加、近日中に公開すると発表した。同日開いた技術説明会で明らかにした。家庭用ゲーム機の操作端末として開発したキネクトを製造業や医療などより幅広い分野で使ってもらいたい考えだ。
「人と機械をつなぐインターフェースとして、NUIが始まりつつある。今まさに、(マウスなどを使った操作方法の一種の)グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)からの転換期だ」と話すのは、日本マイクロソフトの加治佐俊一CTO(最高技術責任者)。マイクロソフトがNUIの要として普及を進めるのがキネクトだ。
キネクトは赤外線を使ったセンサーやマイク、ビデオを搭載、リモコンやコントローラーを使わずにゲームなどを操作できるセンサー装置。当初はマイクロソフトのゲーム機器向けに開発された。手の動きを感知させて、ゲーム内の登場人物を操作するなどの使い方をする。米マイクロソフトはより幅広い分野での使用を目指し、2012年2月に、企業などがキネクトを使って様々な応用法を開発するためのソフトウエアキットを公開した。以降、赤外線制御や加速度センサーの情報を取得できるようにするなど機能を追加してきた。
今回新たに、キネクトを使ってリアルタイムで3Dスキャニングができる機能「KinectFusion」を追加する。複数台のキネクトで対象物を様々な視点からスキャンして得た画像データを合成することで、3D画像として表示する。人や物を3Dで正確に大きさや形、動きを立体的にとらえて、アニメーションやゲームなどの3D映像の表現に活用したり、対象物をスキャンして試作品を作ったりなど製造業での利用を想定している。
日本マイクロソフトは、ソフトウエアキットを使ったキネクトの活用事例も公開した。
「ソフトウエアキットを公開して1年。150を超えるプロジェクトが走っており、世界的に見たときに特に日本で開発が活発」と加治佐氏は話す。例えば、ニチイ学館が提供する非接触型画像操作システム「OPECT(オペクト)」はすでに東京女子医科大学の脳外科手術や歯科口腔(こうくう)外科で採用。手術の際、執刀医が手ぶりで患者のコンピューター断層撮影装置(CT)情報を自由に拡大したり場所を変えたりすることができる。今後3Dの画像にも対応できるようにする計画という。
東大の先端科学技術研究センターと日本マイクロソフトが提供する障害者活動支援ソリューション「OAK」は、脊髄などの障害を持つ人の口の開閉や手の動きなどでその人の意志を表したりすることで、端末に触ることなくデジタル化された本のページをめくったりすることができる。流通・サービス業向けソフト開発、リゾーム(岡山市、中山博光社長)は、商業施設の入退出や通過人数などを時間ごとに計測できる人流計測システム「Hello Counter」を提供している。
発表会では米欧、中国、インドなどで約900人を超える研究者を抱える基礎研究機関「マイクロソフトリサーチセンター」が開発中の最新技術も紹介した。「Digits」は、複数のセンサーを搭載した手首に巻き付けることで手の動きをリアルタイムでとらえるセンサー装置で、タブレット端末操作や家電操作などに応用することができるという。また画像処理や音声認識、音声合成技術を応用、複数の人の会話を処理できるシステムも開発中で、米国本社でのシャトルバスの手配システムにも応用しているという。
「身ぶり手ぶりは人間にとって最も自然な操作方法だ」――。基本OS「MS-DOS」やウィンドウズなど、革新的な人とコンピューターのインターフェースの開発を主導したビル・ゲイツ氏は、NUIの実用化に力を入れてきた。「CPU(中央演算処理装置)やセンサーの性能が高まり、ビッグデータやクラウドが活用されるなど、キネクトが普及する素地ができあがりつつある」(加治佐氏)――。キネクトを使った幅広いアプリケーションが増えそうだ。
(電子報道部 杉原梓)